Tuesday, September 24, 2013

Rush (邦題:ラッシュ プライドと友情)



今、最もアカデミー賞の呼び声高いと言われている衝撃の作品『Rush(邦題:ラッシュ プライドと友情/日本公開20142月7日予定)』。


本フィルムは、Formula 1レーシングの世界における2人の有名レーサーのライバル関係を描いた伝記映画であり、『Apollo 13(邦題:アポロ13)』や『Beautiful Mind(邦題:ビューティフルマインド)などを手掛けた安定の巨匠ロン・ハワードが監督を務める。



私を個人的に知る人は既にご存知の通り、私はFormula 1をこよなく愛しており、ファンを通り越してマニアとも言える。

映画×Formula 1という私の愛して止まない2つの世界。そして、2010年の『Senna(邦題:アイルトン・セナ ~音速の彼方へ)』以来のF1映画ということもあり、920日の全米公開を心待ちにしていた。

翌日21日の朝イチの上映回を観に行ったのだが、普段は席がガラガラの朝でも、フルハウス(満席)状態だった。そして、そこにいる観客全員のハートを掴んだに違いない。予想を遥かに超えて、良かった。

というのも、私はこの映画をすごく楽しみにしていたのだが、期待はしていなかったし、trailer(予告編)も微妙だったし、キャストもあまり魅力的だとも思っていなかったので、F1の映画でなければ観ていなかったかもしれない。


何がそんなに良かったのか、には後ほど触れるとして、まずはストーリーの概要から。



前述した通り、このフィルムは、70年代のFormula 1で活躍した二人のワールドチャンピオン、James Hunt(ジェームス・ハント)とNiki Lauda(ニキ・ラウダ)のライバル関係を描いた実話に基づいた作品である。舞台は1976年だが、それぞれのレーサーがほぼ同時期にFormula 3でデビューをしたところから遡り、彼ら2人の長年に渡るライバルとしての関係が様々なエピソードとともに描かれている。

同じ時期にFormula 1の世界に入り、性格も走りも全く正反対のタイプの2人は、常に比べられ、何かと衝突してきたのである。ジェームス・ハントは「直感型のドライビングテクを誇り、奔放な性格で誰からも愛される天才レーサー」で、ニキ・ラウダは「分析型の隙のないレース運びとメカにも才能を発揮する、冷静な判断力を兼ね備えた秀才レーサー」。
そんな2人がトップを争った1976年シーズン。先頭を走っていたニキ・ラウダはドイツ、ニュルブルクリンクサーキットでの雨天の中のレースで激しいクラッシュに見舞われた。炎に包まれ、顔の上半分が焼けただれてしまい、肺も著しく損傷し、チャンピオンシップの闘いが絶望的なのは勿論のこと、誰もがニキ・ラウダはドライバーとして再起不能だと思っていた。

しかし、ニキ・ラウダは6週間、たったの2戦の欠場で、サーキット上に復活する。その後、更に彼らの闘いはヒートアップし、最終戦までもつれた、日本の富士スピードウェイでの頂上決戦の結末はいかに….



ジェームス・ハント役は Chris Hemsworth(クリス・ヘムズワース)、そしてニキ・ラウダを演じるのはニキ・ラウダの若い頃にそっくりな35歳のドイツ人俳優Daniel Brühl(ダニエル・ブリュール)である。ちなみに、クリス・ヘムズワースは俳優Liam Hemsworth(リアム・ヘムズワース)の実兄。

そして、今注目されている女優Olivia Wildeオリヴィア・ワイルド)がハントの妻役に、ドイツ人女優のAlexandra Maria Lara(アレクサンドラ・マリア・ララ)がラウダの妻役として登場する。



さてさて、ここからはネタバレです。

この映画の何がそんなに良かったのか。

まずは、2人のライバル関係が非常にアツいのだ。これほどライバル心を相手に対して剥き出しにしている関係というのは、ライバルの関係にある人同士でも滅多にないのではないだろうか。また、お互いに毛嫌いするだけではなく、お互いへの深いリスペクトも感じられる。それは、やはりそれぞれのFormula 1に対する愛、リスペクトが非常に大きく、ともに同じ目標を本気で追いかけているからに他ならない。この素晴らしいライバル関係を、なんともまぁ上手に描いているのだ。

また、一緒に観た友人は、Formula 1が特に好きというわけではないものの、映画に感動していた。友人は、ライバル関係とその描き方が素晴らしいね、でもスポーツがF1か否かはあんまり関係ない、という感想を述べた。確かに、どのスポーツの世界でもライバル関係は存在する。しかし、映画として観客に魅せるといった時に、やはり試合/レースの度に、命を賭けて闘っている数少ないスポーツ、そして毎年世界に20人前後しか存在しないF1スーパーライセンスを持っている人にかかる期待と重圧、F1ドライバーという希少性、スポーツ自体がアクションに近い激しさであること、だからこその究極感、臨場感とエンターテインメント性は、F1以外のスポーツで描くのは難しいだろうと思う。

ニュートラルな視点で描かれている、というのも良かった。どちらのドライバーに偏ることなく、イーブンに描かれている。『Senna(邦題:アイルトン・セナ ~音速の彼方へ)』もとても好きだったが、アイルトン・セナが国民的ヒーローである上に、レース中の事故で亡くなってしまったということもあるが、ライバルのアラン・プロストがちょっと可哀想になるくらい、嫌な奴に描かれている。本作品『Rush(邦題:ラッシュ プライドと友情 )』ではハントもラウダも本当にフェアに描かれていて、どちらの視点も同じくらい取り上げられている。

そして、やはり2人が全てにおいて正反対であること。しかし、どちらもすごく人間味があるということ。明日死ぬかもしれないからと毎日が最後かのように自由奔放に暮らす能天気でチャラチャラしたハント。しかし、彼はレースの前は常に吐いてしまうほどの繊細さも持ち合わせている。一方で、良家の出身でレースのことだけに神経を注ぎ、不器用で敵を作りやすいタイプのラウダ。それが故に、映画中にどちらにもすごく愛着が湧いてしまうのだ。
F1レーサー、いやレーシングドライバーは何故かみんな刹那的に思えるということも関係しているのかもしれないが



音速の世界を生き、走った二人の天才の勝負、友情、栄光 、挫折、そして再生。2人が共に命を賭けて競った1976年。
臨場感溢れるレースシーンは、映画館で観ているだけでも、高揚と興奮を与えてくれる。

F1ファンの方はもちろん、ロン・ハワード監督作品のファンの方、映画が好きな方に是非観ていただきたい作品です。

日本では201427日ロードショー予定。


English Trailer


Thursday, September 5, 2013

Lee Daniel’s “The Butler” (邦題:大統領の執事の涙)


 
全米で2013816日に公開された『The Butler(邦題:大統領の執事の涙』は、Cecil Gaines(セシル・ゲインズ)という、8人の米大統領のもとで34年間もの間、ホワイトハウスのバトラー/執事として働く一人の黒人男性の人生にまつわるストーリーを中心に、20世紀のアメリカの歴史を描いた作品である。(告知・宣伝等は、監督の名前をくっつけた『Lee Daniel’s The Butler』として行われている。)

   


本作品は、Julia Roberts(ジュリア・ロバーツ)をハリウッドのトップスターに押し上げた、彼女の出世作であるあの有名な恋愛コメディ『Pretty Woman(邦題:プリティ・ウーマン)』のエグゼクティブプロデューサーとして知られるLaura Ziskin(ローラ・ジスキン)が、2011年に乳がんで亡くなる前に、プロデューサーを務めた最後の遺作でもある。



この映画は 私が今年2013年に観た映画の中で、個人的には間違いなく5本の指に入る映画だ。

そもそもこの作品は、Eugene Allen(ユージン・アレン)という実在したバトラーの話を取り上げた新聞記事を読んだ監督がインスピレーションを受けて発案されたフィルムである。それがゆえに、映画の内容は全て実話(彼の伝記)ではないものの、ストーリーが素晴らしく、男たるもの、そしてまだ差別が明らかだった頃の黒人たるものの姿を真摯に、リアルに描いており、心にぐっとくる。

人種差別が当たり前とされていた時代から、公民権運動が活発になっていくアメリカの歴史、社会の様子と、黒人男性としてそれをホワイトハウスに居ながら、自らが仕える大統領が、彼ら黒人の生活を左右する様々な歴史的決断を下していく過程、そして更に彼自身のボトラーとしての人生を見事に交錯させているのだ。

ホワイトハウスに34年間仕えたバトラーの一生を描くだけでは、物足りなかったかもしれないが、彼のレンズを通して、激しい公民権運動の様子を描き、キング牧師やケネディ大統領の暗殺、ベトナム戦争から、初の黒人大統領であるオバマ大統領が誕生するところを描いている、その絡め方が素晴らしいと思った。


さらに、人間味、愛嬌、賢さを兼ね備えている主人公のCecil Gaines(セシル・ゲインズ)という人物に深く感情移入してしまう。彼は、綿畑で生まれ育ち、母親をレイプされ、それに対して物申そうとした父を目の前で殺され、厳しい有色人種差別の中で幼少期を過ごしていた。そこを身ひとつで逃げ出し、必死に生きようとしている中、自分の天職なるものを見つけ、それを誇りに行きていく姿、家庭と仕事のどちらも守ろうとして苦悩する姿。

運命を呪わず、白人黒人問わず人と接し、白人に対しても復讐心も持とうとせず、ただただ自分の仕事にプライドと誇りを持って従事し、きっと自分たちが使えるホワイトハウスが、いつか自由で平等なアメリカを築いてくれるだろうと期待しながら、賢明に働き、家族を守っていく姿に目頭が熱くなる。


さて、そんな愛すべき、そして尊敬すべきCecil Gaines(セシル・ゲインズ)役を務めるのは『The Last King of Scotland(邦題:ラスト・キング・オブ・スコットランド)』でアカデミー賞男優賞を受賞したことのあるForest Whitaker(フォレスト・ウィテカー)。

セシルの妻Gloria Gaines(グロリア・ゲインズ)役は、かの有名な司会者兼億万長者Oprah Winfrey(オペラ・ウィンフリー)。オペラが本人役以外で役者として出ている映画は数少ない。

 そして、セシルの母Hattie Pearl(ハティ・パール)役は、世界の歌姫Mariah Carey(マライア・キャリー)だ。私は似ているなぁーと思いながら、映画を観ている時には気付かず、エンドロールでマライアの名前を見て驚いた。


人種差別に関する映画は必ずといってアメリカ南部を舞台としているが、例に漏れず、本映画も1920年代のアメリカ南部ジョージア州を舞台にスタートする。映画で見る光景、黒人が人として扱われていない光景は、ジョージア州に住んでいた経験のある私にとっても衝撃である。差別の名残は今も確かに残っているが、それでも私がジョージア州に引っ越した1980年代より、ほんの60年前までこのようなことが当たり前のように起こっていたのだと思うと、感情が揺さぶられる。(ちなみに、実際の撮影地は、ジョージア州ではなく、ルイジアナ州のニューオーリンズで撮影されている。)

とても上映時間がたったの2時間と思えないほど、内容の濃い、見応えのある映画なので、おすすめだ。


日本公開日が2014年2月15日に確定した。
本ブログを読んで少しでも興味を持っていただいた方、トレイラー/予告を見て興味を持った方には、是非機会を見つけて観ていただきたい。


余談だが、本フィルムの配給はThe Weinstein Company(ワインスタイン・カンパニー)。彼らがスポンサーする歴史映画、社会派映画、人種差別を題材にした映画の選び方は非常にセンスを感じる。例えば、近年のアカデミー賞でも目にした作品『The Artist(邦題:アーティスト)』『Iron Lady(邦題:マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙)』『The Master(邦題:ザ・マスター)』『Django Unchained(邦題:ジャンゴ 繋がれざる者)』など。

少し前に本ブログで取り上げた『Fruitvale Station(邦題:未定/日本公開日未定)もワインスタイン社が配給したフィルムうちの一つだ。