今、最もアカデミー賞の呼び声高いと言われている衝撃の作品『Rush(邦題:ラッシュ プライドと友情/日本公開2014年2月7日予定)』。
本フィルムは、Formula 1レーシングの世界における2人の有名レーサーのライバル関係を描いた伝記映画であり、『Apollo
13(邦題:アポロ13)』や『Beautiful
Mind(邦題:ビューティフルマインド)』などを手掛けた安定の巨匠ロン・ハワードが監督を務める。
私を個人的に知る人は既にご存知の通り、私はFormula 1をこよなく愛しており、ファンを通り越してマニアとも言える。
映画×Formula 1という私の愛して止まない2つの世界。そして、2010年の『Senna(邦題:アイルトン・セナ ~音速の彼方へ)』以来のF1映画ということもあり、9月20日の全米公開を心待ちにしていた。
翌日21日の朝イチの上映回を観に行ったのだが、普段は席がガラガラの朝でも、フルハウス(満席)状態だった。そして、そこにいる観客全員のハートを掴んだに違いない。予想を遥かに超えて、良かった。
というのも、私はこの映画をすごく楽しみにしていたのだが、期待はしていなかったし、trailer(予告編)も微妙だったし、キャストもあまり魅力的だとも思っていなかったので、F1の映画でなければ観ていなかったかもしれない。
何がそんなに良かったのか、には後ほど触れるとして、まずはストーリーの概要から。
前述した通り、このフィルムは、70年代のFormula 1で活躍した二人のワールドチャンピオン、James
Hunt(ジェームス・ハント)とNiki
Lauda(ニキ・ラウダ)のライバル関係を描いた実話に基づいた作品である。舞台は1976年だが、それぞれのレーサーがほぼ同時期にFormula
3でデビューをしたところから遡り、彼ら2人の長年に渡るライバルとしての関係が様々なエピソードとともに描かれている。
同じ時期にFormula 1の世界に入り、性格も走りも全く正反対のタイプの2人は、常に比べられ、何かと衝突してきたのである。ジェームス・ハントは「直感型のドライビングテクを誇り、奔放な性格で誰からも愛される天才レーサー」で、ニキ・ラウダは「分析型の隙のないレース運びとメカにも才能を発揮する、冷静な判断力を兼ね備えた秀才レーサー」。
そんな2人がトップを争った1976年シーズン。先頭を走っていたニキ・ラウダはドイツ、ニュルブルクリンクサーキットでの雨天の中のレースで激しいクラッシュに見舞われた。炎に包まれ、顔の上半分が焼けただれてしまい、肺も著しく損傷し、チャンピオンシップの闘いが絶望的なのは勿論のこと、誰もがニキ・ラウダはドライバーとして再起不能だと思っていた。
しかし、ニキ・ラウダは6週間、たったの2戦の欠場で、サーキット上に復活する。その後、更に彼らの闘いはヒートアップし、最終戦までもつれた、日本の富士スピードウェイでの頂上決戦の結末はいかに….
ジェームス・ハント役は Chris Hemsworth(クリス・ヘムズワース)、そしてニキ・ラウダを演じるのはニキ・ラウダの若い頃にそっくりな35歳のドイツ人俳優Daniel
Brühl(ダニエル・ブリュール)である。ちなみに、クリス・ヘムズワースは俳優Liam
Hemsworth(リアム・ヘムズワース)の実兄。
そして、今注目されている女優Olivia Wilde(オリヴィア・ワイルド)がハントの妻役に、ドイツ人女優のAlexandra Maria Lara(アレクサンドラ・マリア・ララ)がラウダの妻役として登場する。
さてさて、ここからはネタバレです。
この映画の何がそんなに良かったのか。
まずは、2人のライバル関係が非常にアツいのだ。これほどライバル心を相手に対して剥き出しにしている関係というのは、ライバルの関係にある人同士でも滅多にないのではないだろうか。また、お互いに毛嫌いするだけではなく、お互いへの深いリスペクトも感じられる。それは、やはりそれぞれのFormula
1に対する愛、リスペクトが非常に大きく、ともに同じ目標を本気で追いかけているからに他ならない。この素晴らしいライバル関係を、なんともまぁ上手に描いているのだ。
また、一緒に観た友人は、Formula 1が特に好きというわけではないものの、映画に感動していた。友人は、ライバル関係とその描き方が素晴らしいね、でもスポーツがF1か否かはあんまり関係ない、という感想を述べた。確かに、どのスポーツの世界でもライバル関係は存在する。しかし、映画として観客に魅せるといった時に、やはり試合/レースの度に、命を賭けて闘っている数少ないスポーツ、そして毎年世界に20人前後しか存在しないF1スーパーライセンスを持っている人にかかる期待と重圧、F1ドライバーという希少性、スポーツ自体がアクションに近い激しさであること、だからこその究極感、臨場感とエンターテインメント性は、F1以外のスポーツで描くのは難しいだろうと思う。
ニュートラルな視点で描かれている、というのも良かった。どちらのドライバーに偏ることなく、イーブンに描かれている。『Senna(邦題:アイルトン・セナ ~音速の彼方へ)』もとても好きだったが、アイルトン・セナが国民的ヒーローである上に、レース中の事故で亡くなってしまったということもあるが、ライバルのアラン・プロストがちょっと可哀想になるくらい、嫌な奴に描かれている。本作品『Rush(邦題:ラッシュ プライドと友情 )』ではハントもラウダも本当にフェアに描かれていて、どちらの視点も同じくらい取り上げられている。
そして、やはり2人が全てにおいて正反対であること。しかし、どちらもすごく人間味があるということ。明日死ぬかもしれないからと毎日が最後かのように自由奔放に暮らす能天気でチャラチャラしたハント。しかし、彼はレースの前は常に吐いてしまうほどの繊細さも持ち合わせている。一方で、良家の出身でレースのことだけに神経を注ぎ、不器用で敵を作りやすいタイプのラウダ。それが故に、映画中にどちらにもすごく愛着が湧いてしまうのだ。
F1レーサー、いやレーシングドライバーは何故かみんな刹那的に思えるということも関係しているのかもしれないが…。
音速の世界を生き、走った二人の天才の勝負、友情、栄光 、挫折、そして再生。2人が共に命を賭けて競った1976年。
臨場感溢れるレースシーンは、映画館で観ているだけでも、高揚と興奮を与えてくれる。
F1ファンの方はもちろん、ロン・ハワード監督作品のファンの方、映画が好きな方に是非観ていただきたい作品です。
日本では2014年2月7日ロードショー予定。
English Trailer