全米で2013年8月16日に公開された『The
Butler(邦題:大統領の執事の涙)』は、Cecil Gaines(セシル・ゲインズ)という、8人の米大統領のもとで34年間もの間、ホワイトハウスのバトラー/執事として働く一人の黒人男性の人生にまつわるストーリーを中心に、20世紀のアメリカの歴史を描いた作品である。(告知・宣伝等は、監督の名前をくっつけた『Lee
Daniel’s The Butler』として行われている。)
本作品は、Julia Roberts(ジュリア・ロバーツ)をハリウッドのトップスターに押し上げた、彼女の出世作であるあの有名な恋愛コメディ『Pretty
Woman(邦題:プリティ・ウーマン)』のエグゼクティブプロデューサーとして知られるLaura Ziskin(ローラ・ジスキン)が、2011年に乳がんで亡くなる前に、プロデューサーを務めた最後の遺作でもある。
この映画は 私が今年2013年に観た映画の中で、個人的には間違いなく5本の指に入る映画だ。
そもそもこの作品は、Eugene Allen(ユージン・アレン)という実在したバトラーの話を取り上げた新聞記事を読んだ監督がインスピレーションを受けて発案されたフィルムである。それがゆえに、映画の内容は全て実話(彼の伝記)ではないものの、ストーリーが素晴らしく、男たるもの、そしてまだ差別が明らかだった頃の黒人たるものの姿を真摯に、リアルに描いており、心にぐっとくる。
人種差別が当たり前とされていた時代から、公民権運動が活発になっていくアメリカの歴史、社会の様子と、黒人男性としてそれをホワイトハウスに居ながら、自らが仕える大統領が、彼ら黒人の生活を左右する様々な歴史的決断を下していく過程、そして更に彼自身のボトラーとしての人生を見事に交錯させているのだ。
ホワイトハウスに34年間仕えたバトラーの一生を描くだけでは、物足りなかったかもしれないが、彼のレンズを通して、激しい公民権運動の様子を描き、キング牧師やケネディ大統領の暗殺、ベトナム戦争から、初の黒人大統領であるオバマ大統領が誕生するところを描いている、その絡め方が素晴らしいと思った。
さらに、人間味、愛嬌、賢さを兼ね備えている主人公のCecil
Gaines(セシル・ゲインズ)という人物に深く感情移入してしまう。彼は、綿畑で生まれ育ち、母親をレイプされ、それに対して物申そうとした父を目の前で殺され、厳しい有色人種差別の中で幼少期を過ごしていた。そこを身ひとつで逃げ出し、必死に生きようとしている中、自分の天職なるものを見つけ、それを誇りに行きていく姿、家庭と仕事のどちらも守ろうとして苦悩する姿。
運命を呪わず、白人黒人問わず人と接し、白人に対しても復讐心も持とうとせず、ただただ自分の仕事にプライドと誇りを持って従事し、きっと自分たちが使えるホワイトハウスが、いつか自由で平等なアメリカを築いてくれるだろうと期待しながら、賢明に働き、家族を守っていく姿に目頭が熱くなる。
さて、そんな愛すべき、そして尊敬すべきCecil Gaines(セシル・ゲインズ)役を務めるのは『The
Last King of Scotland(邦題:ラスト・キング・オブ・スコットランド)』でアカデミー賞男優賞を受賞したことのあるForest
Whitaker(フォレスト・ウィテカー)。
セシルの妻Gloria Gaines(グロリア・ゲインズ)役は、かの有名な司会者兼億万長者Oprah
Winfrey(オペラ・ウィンフリー)。オペラが本人役以外で役者として出ている映画は数少ない。
そして、セシルの母Hattie
Pearl(ハティ・パール)役は、世界の歌姫Mariah Carey(マライア・キャリー)だ。私は似ているなぁーと思いながら、映画を観ている時には気付かず、エンドロールでマライアの名前を見て驚いた。
人種差別に関する映画は必ずといってアメリカ南部を舞台としているが、例に漏れず、本映画も1920年代のアメリカ南部ジョージア州を舞台にスタートする。映画で見る光景、黒人が人として扱われていない光景は、ジョージア州に住んでいた経験のある私にとっても衝撃である。差別の名残は今も確かに残っているが、それでも私がジョージア州に引っ越した1980年代より、ほんの60年前までこのようなことが当たり前のように起こっていたのだと思うと、感情が揺さぶられる。(ちなみに、実際の撮影地は、ジョージア州ではなく、ルイジアナ州のニューオーリンズで撮影されている。)
とても上映時間がたったの2時間と思えないほど、内容の濃い、見応えのある映画なので、おすすめだ。
本ブログを読んで少しでも興味を持っていただいた方、トレイラー/予告を見て興味を持った方には、是非機会を見つけて観ていただきたい。
余談だが、本フィルムの配給はThe Weinstein
Company(ワインスタイン・カンパニー)。彼らがスポンサーする歴史映画、社会派映画、人種差別を題材にした映画の選び方は非常にセンスを感じる。例えば、近年のアカデミー賞でも目にした作品『The
Artist(邦題:アーティスト)』『Iron Lady(邦題:マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙)』『The Master(邦題:ザ・マスター)』『Django
Unchained(邦題:ジャンゴ 繋がれざる者)』など。
少し前に本ブログで取り上げた『Fruitvale Station(邦題:未定/日本公開日未定)』もワインスタイン社が配給したフィルムうちの一つだ。
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