なんて苦しい気持ちになる映画なのだろう。
最後の数十分、涙がぽろぽろとこぼれ、止まらなかった。
もう6年前の映画になる『The Reader(邦題:愛を読むひと)』。Bernhard Schlink(ベルンハルト・シュリンク)の小説『朗読者』を、Stephen Daldry(スティーブン・ダルドリー)監督が映画化したもので、アメリカとドイツの合作映画だ。
第81回アカデミー賞では作品賞を含む5部門にノミネートされ、Kate Winslet(ケイト・ウィンスレット)がアカデミー賞主演女優賞を受賞したことでも有名な作品である。
映画が公開された当初に観るはずだったが、機会を逃し、そのままずるずると観ることがなく、気付いたらかなりの時が過ぎていた。
世間の評判は高かったが、身近な人たちの評判は総じて「単なる熟女と少年のひと夏のアバンチュールの話」というもので、イマイチだったのも、どうしても今すぐ観ようと思わなかった理由の一つかもしれない。
それが、蓋を開けて観てみると、なんと深みのある、悲しくて切なくて美しくて愛しいラブストーリーであることか。
1958年のドイツ、15歳のミヒャエル・ベルク(David Kross/デヴィッド・クロス)は21歳も年上のハンナ・シュミッツ(Kate
Winslet/ケイト・ウィンスレット)と恋に落ちた。ミヒャエルが朗読が得意 だと知り、ハンナはミヒャエルに本の朗読を頼むようになる。こうして、二人は愛を深めていった 。
しかし、そんな幸せな日々は長く続かず、仕事で昇進の内示を受けたハンナは、ある日突然マイケルの前から姿を消してしまう。
数年後、法学専攻の大学生になったミヒャエルは、教授や他の生徒たちと一緒に 、とあるナチス戦犯の裁判を傍聴することになる。
その時、法廷の被告席には6人の女性がおり、その1人は、なんとハンナだった。意外なかたちで再会した二人。
その先に待っていたものは…。
ココからはネタバレ注意↓
裁判中、報告書は6人の看守が共同して作成したものというハンナの証言にたいして、他の被告人たちは、こぞってハンナが指示を出したのはハンナで、報告書もハンナが作成したと証言し始める。
それを受け、判事は筆跡鑑定をしようとハンナにペンと紙を渡すが、ハンナはこの時、報告書は自分が書いたものだと認める。
ミヒャエルは、この時の彼女の不可解な反応を観て、これまでの彼女と過ごした時間が走馬灯のように駆け巡り、一つの疑惑が頭に浮かぶ。
それは、彼女が文盲なのではないか。そして、それを隠しているのではないか、ということだ。
それは、彼女が文盲なのではないか。そして、それを隠しているのではないか、ということだ。
ハンナが自分や人に本を朗読してもらうことを好む一方で、自分が朗読することは拒んだことや、メニューは見ることなく自分が頼んだものをそのまま頼むこと、さらに筆跡鑑定を拒んだことなどを思い返し、ミヒャエルはその疑惑が確かなものだと確信する。
彼女に報告書が書けるはずがない...
彼女に報告書が書けるはずがない...
彼は、判決に大きく影響を及ぼすであろうこの事実を、言うべきか言わないべきか思い悩む。しかし、彼女が罪を全て被る覚悟をしてまで隠し通そうとしている文盲であるという事実、彼女のプライドや気持ちを尊重し、結果的に行動を起こすことなく、判決の日を迎える。
ハンナに言い渡された判決、それは無期懲役の判決だった。
それから時が経ち、大人になったミヒャエル(Ralph Fiennes/レイフ・ファインズ)は弁護士となり、家庭を持った。しかし、結婚生活はうまく行かず、離婚してしまう。
いつまでも引きずってしまう、行き場のないハンナへの想い...
いつまでも引きずってしまう、行き場のないハンナへの想い...
そんな矢先、思い立ったかのように、ミヒャエルは本を朗読し始め、録音するのだった。そして、そのカセットをハンナのいる刑務所へ定期的に送りはじめる。
ハンナは、刑務所の中でミヒャエルが朗読したカセットを受け取り、聞くことが何よりもの楽しみとなる。更に、彼女は遂に、本の文章とカセットから流れてくる言葉を聞きながら、両方を照らし合わせ、独学で文字を学び始めるのである。
服役から20年が経った頃、 ハンナは仮出所することが認められる。文通という形で、唯一彼女と連絡を取っていたミヒャエルが身元引受人となる。出所1週間前に出所後の生活の用意をしたことを告げに刑務所のハンナと面会しくる。二人が直接言葉を交わしたのは、ミヒャエルが15歳の時のあの夏に、ハンナが彼の前から姿を消す直前だった。
出所の日、ミヒャエルはハンナを迎えにいくが、ハンナは首をつって自殺してしまう。ミヒャエルは刑務所の職員から遺書らしきものうちミヒャエルにあてたくだりを読みきかされる。その後、ミヒャエルは成人した娘とともにハンナの墓参りに訪れ、娘にハンナとの物語を語り始める。
なんという、一途で綺麗な純愛。
ミヒャエル は15歳で恋をした女性に、そしてたったひと夏しか一緒に過ごしていない女性に、とてつもなく長い時間、とらわれる人生を送ることになったのだ。甘酸っぱい初恋では済まず、一生ハンナという女性を思い続けてしまう。
そのミヒャエルの想いに、観ているこちらの胸が苦しく、息が重くなる。
ただ、この物語はただの純愛というわけでもなく、もっともっと深いメッセージがたくさん隠れているような、気付く人には気付くコンセプトやテーマが隠れている映画だと思う。
それは、この映画は、繰り返し2回見終わった後にも、なんであの時にハンナはああいう風に言ったのだろう?なんでハンナはそういう行動をとったのだろう?ハンナの言葉の裏にある意味やメッセージはどういうことなのだろう?あのシーンはどういうことなのか?と考え込んでしまう場面がたくさんあるからだ。
それにしても、彼女の秘密、その秘密があるがゆえの彼女の生き方や性格、時代設定、場所、ストーリーの流れ、テーマ、小説から脚本へのアダプション、細部へのこだわり、映像、ストーリーの語り方、そして見せ方など、すべてが考え尽くされた映画という印象だ。
ハンナ・シュミッツという女性を演じられるのはケイト・ウィンスレットくらいだろう。少年時代のミヒャエル、大人になったミヒャエルも、見事なキャスティングだ。
ハンナ・シュミッツという女性を演じられるのはケイト・ウィンスレットくらいだろう。少年時代のミヒャエル、大人になったミヒャエルも、見事なキャスティングだ。
小説を読むことが好きな人には、心からおすすめしたい素晴らしい映画だ。
見終わった時には、ながいながい小説を読み終えた気分になるのである。