Wednesday, August 27, 2014

Boyhood(邦題:6才のボクが、大人になるまで。)


子供の男の子が大人の少年になっていく過程を12年間かけて撮った作品。

これを聞いただけでも、鳥肌が立ってしまうこの映画、『Boyhood(邦題:6才のボクが、大人になるまで。)』。


Before Sunrise(邦題:ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス))』から始まったBefore Trilogy(ビフォア・シリーズ 3部作)を手がけたRichard Linklater(リチャード・リンクレイター)が脚本、監督を務めた。

リンクレイター監督は「子供が6歳から18歳になり、大学に進学して親元を離れるまでの12年間の親子関係を描き出したい。しかし、子供に起きる変化は多すぎて十分に語りつくせない。だから、子供が経験するものすべてをこの映画に盛り込むつもりで脚本を執筆した」と語っている。


本作のお披露目は第30回サンダンス映画祭。ベルリン国際映画祭では、リンクレイター監督が監督賞(銀熊賞)を受賞し、世界中で注目されている。既に日本での公開も1114日(金)に決定し、話題となっているようだが、このブログでも是非ひと足先に取り上げたいと思う。



【ストーリー】
主人公は、テキサス州に住む6歳の少年メイソン・ジュニア。母親のオリヴィアは自由奔放な父親のメイソンと離婚し、家族を養えるようキャリアアップするために大学で学ぶと決め、メイソン・ジュニアと姉のサマンサを連れてヒューストンに転居する。


メイソン・ジュニアはそこで多感な少年時代を過ごす。転校、アラスカから戻って来た父との再会、母のお互い子連れ同士の再婚、新しい家族で過ごす日々、義父の暴力、そして初恋。時には周囲の環境の変化に耐えながら、時には周囲に順応し、柔軟に対応しながら、メイソン・ジュニアは静かに子供時代を卒業していく。


再びシングルマザーとなったオリヴィアは、やがて大学の教師となり、オースティン近郊に移り住む。母は大学の生徒と恋人の関係になり、また新しい家で一緒に暮らすこととなる。一方、ミュージシャンの夢をあきらめた父は保険会社に就職し、再婚もして、再婚相手との間に一人子供を授かった。メイソン・ジュニアは父家族とも交流をしていく。


高校生になったメイソン・ジュニアはパーティにも顔を出すようになり、恋人もでき、同時に大学進学や将来について悩むようになる。カメラという趣味が、次第に本格的に写真家になりたいという夢に変わっていく。そんなメイソン・ジュニアは、大学に行き、アートを学ぶことを決め、寮生活をスタートすべく、母の元から巣立って行く。


*****

そう、特に起承転結もなく、ストーリーが永遠と続いていくような、落としどころもない映画ではある。しかし、それは一人の少年の人生を追っている作品であるがゆえに、「終わり」というものがないからでもある。彼の人生はこの映画が終わっても続いていく。

まさにメイソン・ジュニアと、その家族の変化、成長の一瞬一瞬を捉えた作品なのだ。

12年間という時の流れが生み出す様々な変化、それこそがこの映画の見どころである。


そもそも、12年間をかけて映画を撮ろうという発想、一人の少年、一つの家族の 12年間の中での変化を描いてみようという、そのありそうでなかったコンセプト自体にあっぱれだ。誰も試みたことのない製作スタイルと、歳月の力を借りながら成長の過程を画面に焼き付けていく作風に脱帽だ。


本作の撮影は、2002年の夏から2013年の10月まで12年間を通して断続的に行われた。毎年数週間だけ集まって撮影をする、それを12年間に渡って行ったのである。脚本のスクリプトも最後までしっかりとは決まっていなかったという。

観ていると、本当にこの家族と一緒に12年の年月を歩んできた気持ちになる。そして同時に、一つの家族の成長や変遷を自分自身と照らし合わせながら観るような作品でもある。


主要キャストが12年間、なにごともなく、この映画にコミットしたことも、俳優たちのプロ意識と監督のこの作品に対する想いの強さの賜物であろう。

特に、メイソン・ジュニアを演じたEllar Coltrane(エラー・コルトレーン)。実生活でも多感な思春期に、薬物に溺れてしまったり、事故にあったり、ぐれてしまうことも有り得たであろうが、そのようなこともなく、12年間しっかり務めあげた。製作のプロセスがスローで、本当にこの作品が形になるのか、自分のキャリアに焦ることもあっただろう。


この映画の原題は“Boyhood”ではあるものの、メイソン・ジュニアの成長のみを描いた作品ではない。

Beforeシリーズでもお馴染みのEthan Hawke(イーサン・ホーク)が父メイソン・シニアを演じ、『True Romance(邦題:トゥルー・ロマンス)』やTVシリーズ『Medium(邦題:ミディアム 霊能者アリソン・デュボア)』のPatricia Arquette(パトリシア・アークエット)が母オリヴィア、そしてリンクレイター監督の実の娘である Lorelei Linklater(ローレライ・リンクレイター)が姉サマンサ役を12年に渡り演じきっている。彼らが演じるそれぞれの役も変化していっている。


Boyhood(少年時代)だけでなく、“sisterhood(姉弟関係)”や“parenthood(親であること)”も描いた作品だ。だからこそ、誰が観ても共感ができる映画だと思う。

そもそも、タイトルのBoyhoodは、後から付けられたもので、本当は12年の軌跡を描いているだけに、“12 Years”という題を付ける予定だったようだ。それが、『12 Years of Slave(それでも夜は明ける)』の登場により、タイトルが似てしまうことを避ける為に、Boyhoodに変更をしたそう。


それにしても、この作品をリンクレーター監督が『Before Sunset(邦題:ビフォア・サンセット)』や『Before Midnight(邦題:ビフォア・ミッドナイト)』の前から撮っていたのだと思うと、なんだかとても感動してしまう。ビフォアシリーズでもカップルの成長と変化を3部作で描いて撮ったりと、リントレイター監督が時の流れによって変わっていくものを映画で見せるということへのこだわりが感じられる。監督はじめ、プロダクションに関わった全ての人達もきっとすごい思い入れのある作品になったことだろう。



ランニングタイム2時間44分(164分間)という非常に長編映画ではあるが、笑いもたくさん盛り込まれているので、気付いたら時間が経過していたという感じだ。


名前が父と一緒だったり、離婚を繰り返す母がいたり、責任を追いたくない夢見がちな父がいたり、母の再婚相手の家族と溶け込めたり、父の新しい家族とも仲良くできたり、本当にアメリカでありがちなごくごく一般的な家庭を描いているため、アメリカでの方が日本でよりも共感され、受け入れられやすい映画であるとは思うが、twitterフォロワーさんの言葉を借りると「時の流れと変化は万人共通」なので、日本でもきっと誰もが観て楽しめる映画ではないだろうか。


私も幼少期はアメリカ南部で育ったので、この映画を観ながら、同じようなところに行ったなーとか、家の周りの感じや学校の教室が似ているなーとか、お姉ちゃんと同じようことをして遊んだりケンカしたりしたなーとか、昔を回想しながら、とても懐かしい気持ちで観ていた。

熱心なクリスチャンのおじいちゃんおばあちゃんがいて、メイソン・ジュニアが誕生日でその家に行った時に銃と聖書がプレゼントされた時には、田舎町で育った白人の男の子なら誰しもが同じことを経験しただろうなーと、会場一体が爆笑するような場面も。



自分の幼少期、思春期、青春期を思い返したり、親の人は親の気持ちに感情移入してみたり、人ぞれぞれの想いを馳せながら、じっくり楽しんでいただきたい映画である。

さてさて、私ももう一度映画館に足を運んで、この作品に浸りに、二回目を観てこよう。


English ver. trailer

Sunday, August 24, 2014

A Most Wanted Man(邦題:誰よりも狙われた男)


今年2月に薬物中毒で急逝した名俳優Philip Seymour Hoffman(フィリップ・シーモア・ホフマン)の最後の主演作となった『A Most Wanted Man(邦題:誰よりも狙われた男)』。



この映画の元となるストーリーとなったのはJohn le Carré(ジョン・ル・カレ)の小説。彼自身、イギリスの情報機関で働いていたバックグラウンドがある為、彼が書くスパイ小説は非常にリアル且つスリルがあり面白い。


監督は 写真家として世界中で知られるイギリス在住オランダ人のAnton Corbijn(アントン・コービン)が務めた。



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本作は、アメリカ同時多発テロ事件後でテロ行為に対して各国が警戒を強めている状況の中、ドイツのハンブルクという街を舞台に、対テロ諜報チームを率いる男がテロリストの資金源となっている者の正体をつかんでいくというもの。

映画はIssa(イッサ)というチェチェン族の母を持ち、イスラム過激派に関わりがあるといわれる若者がドイツに泳いで密入国してくるところから始まる。



フィリップ・シーモアが演じるバッハマンは、諜報機関でテロ対策チームの指揮をとっており、イッサをマークし、監視する。一方、イッサは知人宅に身を寄せ、知人が連れて来てくれた人権団体の女性弁護士アナベルにドイツに永住できるように依頼するとともに、銀行家のブルーとも接触をしようとする。



バッハマン率いる諜報チームはイッサを泳がせながら、イッサが気付かないようにアナベルを巻き込み、イッサの動向を追い掛けることでテロ資金源となっている人物にたどりつこうとする。



バッハマンの作戦どおりに鍵となる人物を巻き込み、物事が思い通りに進んでいるかのように思えた

巨大な闇をまえに、バッハマンは果たしてミッションを完了することはできるのか。

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この映画のみどころはいくつかあるが、そのうち3つほど挙げてみたいと思う。

一つ目はなんと言っても、フィリップ・シーモア・ホフマンの見事な演技。

過去の暗い出来事に縛られ、その呪縛から逃れる為にも、なんとしても今回のミッションを成功させたい主人公のバッハマン。酒とたばこを手放させず、組織との軋轢と闘いながら、己の信念を貫こうとする男の孤高の凄みや哀愁、人間臭さを、フィリップ・シーモアはこれ以上ない深みと迫力で絶品の演技を披露している。



彼がアカデミー賞主演男優賞に輝いた『Capote(邦題:カポーティ)』や、『The Master(邦題:ザ・マスター)』に続き、観る者の胸に響く演技を見せてくれる。新しい作品で彼の演技をもう観ることができないと思うと悲しい。


さて、二つ目のみどころは母国で人気、実力ともにある豪華なキャスト陣。

女性弁護士アナベル役には、『The Notebook(邦題:きみに読む物語)』などで知られる人気女優のRachel McAdams(レイチェル・マクアダムス)。彼女が出ている映画を観たのはひさしぶりだったが、すごく演技が上手くなったと感じた。



銀行家ブルー役には最近『The Fault In Our Stars(邦題:さよならを待つふたりのために)』にも小説家役として出演したばかりのベテラン俳優Willem Dafoe(ウィレム・デフォー)、CIA役にRobin Wright(ロビン・ライト)など大物がズラリ。



その他にも、バッハマン率いるチームのメンバーには、ドイツ人女優のNina Hoss(ニーナ・ホス)、同じくドイツ人でF1映画『Rush(邦題:ラッシュ プライドと友情)』に主演したDaniel Brühl(ダニエル・ブリュール)や、本作の鍵を握るドイツに密入国した若者イッサ役に掘り出し物のロシア人俳優Grigori Dobrygin(グレゴリー・ドブリギン)を起用している。



三つ目のみどころは、写真家としてのキャリアの方が長いアントン・コービン監督ならではのスタイリッシュな映像と繊細なストーリーテリング。

画面/フレームの中のディテールにこだわった、まるでスティル写真の連続のような場面や景色が印象的である。人物のクローズアップや、表情、プロップの配置、色合いなど写真家らしい撮り方もうかがえる。

また、監督はもともと音楽を通じて写真の魅力に目覚めたということもあり、音楽も映像とストーリーにぴったりと馴染んでおり、監督の本作の音楽に対するこだわりも感じられる。


本作には、バイオレントなシーンはほとんどない。血も一切ない。しかし、スリルは満載。諜報戦を題材にするにふさわしいスマートで知的な映画に仕上がっている。



フィリップ・シーモアの遺作を是非映画館で観ていただきたい。日本では10月17日に公開予定だ。

English language trailer