今年2月に薬物中毒で急逝した名俳優Philip
Seymour Hoffman(フィリップ・シーモア・ホフマン)の最後の主演作となった『A
Most Wanted Man(邦題:誰よりも狙われた男)』。
この映画の元となるストーリーとなったのはJohn le Carré(ジョン・ル・カレ)の小説。彼自身、イギリスの情報機関で働いていたバックグラウンドがある為、彼が書くスパイ小説は非常にリアル且つスリルがあり面白い。
監督は 写真家として世界中で知られるイギリス在住オランダ人のAnton
Corbijn(アントン・コービン)が務めた。
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本作は、アメリカ同時多発テロ事件後でテロ行為に対して各国が警戒を強めている状況の中、ドイツのハンブルクという街を舞台に、対テロ諜報チームを率いる男がテロリストの資金源となっている者の正体をつかんでいくというもの。
フィリップ・シーモアが演じるバッハマンは、諜報機関でテロ対策チームの指揮をとっており、イッサをマークし、監視する。一方、イッサは知人宅に身を寄せ、知人が連れて来てくれた人権団体の女性弁護士アナベルにドイツに永住できるように依頼するとともに、銀行家のブルーとも接触をしようとする。
バッハマンの作戦どおりに鍵となる人物を巻き込み、物事が思い通りに進んでいるかのように思えた…。
巨大な闇をまえに、バッハマンは果たしてミッションを完了することはできるのか。
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この映画のみどころはいくつかあるが、そのうち3つほど挙げてみたいと思う。
一つ目はなんと言っても、フィリップ・シーモア・ホフマンの見事な演技。
過去の暗い出来事に縛られ、その呪縛から逃れる為にも、なんとしても今回のミッションを成功させたい主人公のバッハマン。酒とたばこを手放させず、組織との軋轢と闘いながら、己の信念を貫こうとする男の孤高の凄みや哀愁、人間臭さを、フィリップ・シーモアはこれ以上ない深みと迫力で絶品の演技を披露している。
彼がアカデミー賞主演男優賞に輝いた『Capote(邦題:カポーティ)』や、『The
Master(邦題:ザ・マスター)』に続き、観る者の胸に響く演技を見せてくれる。新しい作品で彼の演技をもう観ることができないと思うと悲しい。
さて、二つ目のみどころは母国で人気、実力ともにある豪華なキャスト陣。
女性弁護士アナベル役には、『The Notebook(邦題:きみに読む物語)』などで知られる人気女優のRachel
McAdams(レイチェル・マクアダムス)。彼女が出ている映画を観たのはひさしぶりだったが、すごく演技が上手くなったと感じた。
銀行家ブルー役には最近『The
Fault In Our Stars(邦題:さよならを待つふたりのために)』にも小説家役として出演したばかりのベテラン俳優Willem
Dafoe(ウィレム・デフォー)、CIA役にRobin Wright(ロビン・ライト)など大物がズラリ。
その他にも、バッハマン率いるチームのメンバーには、ドイツ人女優のNina
Hoss(ニーナ・ホス)、同じくドイツ人でF1映画『Rush(邦題:ラッシュ プライドと友情)』に主演したDaniel
Brühl(ダニエル・ブリュール)や、本作の鍵を握るドイツに密入国した若者イッサ役に掘り出し物のロシア人俳優Grigori
Dobrygin(グレゴリー・ドブリギン)を起用している。
三つ目のみどころは、写真家としてのキャリアの方が長いアントン・コービン監督ならではのスタイリッシュな映像と繊細なストーリーテリング。
画面/フレームの中のディテールにこだわった、まるでスティル写真の連続のような場面や景色が印象的である。人物のクローズアップや、表情、プロップの配置、色合いなど写真家らしい撮り方もうかがえる。
画面/フレームの中のディテールにこだわった、まるでスティル写真の連続のような場面や景色が印象的である。人物のクローズアップや、表情、プロップの配置、色合いなど写真家らしい撮り方もうかがえる。
また、監督はもともと音楽を通じて写真の魅力に目覚めたということもあり、音楽も映像とストーリーにぴったりと馴染んでおり、監督の本作の音楽に対するこだわりも感じられる。
フィリップ・シーモアの遺作を是非映画館で観ていただきたい。日本では10月17日に公開予定だ。
English language trailer
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