Monday, June 1, 2015

Ex Machina (邦題:エクス・マキナ)


『Ex Machina(邦題:エクス・マキナ)』は美しい人工知能を描いたイギリスのSFスリラーである。


監督はAlex Garland(アレックス・ガーランド)。彼は、2010年のイギリス映画『Never Let Me Go(邦題:わたしを離さないで)』では脚本とエグゼクティブプロデューサーを務めた人物である。


キャストはOscar Isaac(オスカー・アイゼック)を除いては、あまり知名度の高くないキャスティングではあったが、近未来的な題材と、最初から最後まで観る者の好奇心をそそり、目が離せない展開でイギリス、アメリカでも大ヒットとなった。

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物語は、グーグル社を連想されるサーチエンジンを主幹とした巨大IT企業に勤務するキャレブ・スミスという一人の優秀なプログラマーがプログラミングテストを経て、この会社のCEOであるネイサン・ベイトマンが隠居生活をしている山荘で一週間を過ごす権利を勝ち取るところから始まる。



キャレブは山荘に着いた瞬間から、この謎に満ちた山荘に興奮すると同時に違和感を覚える。

キャレブはCEOのネイサンから、必ずや歴史上に残る、とある実験に参加して欲しいと言われるが、その内容については、機密保持契約を結ぶまでは教えられないと言われる。
この山荘の中で知り得たこと、見たこと、聞いたことの全ては決して口外してはならないのだ。

キャレブは、予想だにできないその実験に、少なからずの不安を感じつつも、歴史的な発明に関われるようなチャンスは二度と訪れないと考え、機密保持契約にサインをする。




この一週間を過ごす権利は、CEOが独自に推進する人工知能の新プランドの実験だったのである。

そのAI(人口知能)とは、女性型のロボット「AVA」であり、人間と同等に洗練された感情的知性を持ち、美しく魅惑的であった。



AVAが本当に人間と全く同じような感情を持ち、知能を持つのか。

それを探ろうとするキャレブ、そしてAIを操り、完全に支配するネイサンは、果たしてどのような結論を導くのか。



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キャレブ役はアイルランド出身のDomhnall Gleeson(ドーナル・グリーソン)、CEOネイサン役はグアテマラ出身の俳優Oscar Isaac(オスカー・アイゼック)、そして息を呑むほど美しい“AVA”役は26歳のスェーデン人女優Alicia Vikander(アリシア・ヴィキャンデル)。彼女はMichael Fassbenderのガールフレンドである。

また、Kyokoという山荘にいる不思議な女性を努める、イギリス系日本人のモデル兼ダンサーであるSonaya Mizunoもインパクト大である。


 


Her(邦題:her/世界でひとつの彼女)』同様に、テクノロジーの未来が、そう未来でもないことを感じさせる作品だ。近未来系の映画であるものの、人口知能はもう既に世の中に溢れている。

だからこそ、こういった映画が人を魅了するのだろう。

みんな、どこまでテクノロジーが進化するのか、“今”の少しその先を見たいと思うのだろう。



エンディングはもうちょっと何とかできた感じは否めないが、そこまでの物語の持っていき方、築き上げ方は素晴らしかった。


現時点での日本公開は未定であるが、公開が決まった暁には、是非ぜひ映画館に足を運んで観ていただきたい作品だ。

Tuesday, March 31, 2015

The Namesake(邦題:その名にちなんで) &The Lunchbox(邦題:めぐり逢わせのお弁当) — Bollywoodの名作たち

どんどん勢いを増していき、名作が生まれているBollywood(ボリウッド)。
そのアツさは、もやはハリウッドも無視できないくらいだ。


Bollywoodとはインド・ムンバイの映画業界やヒンディー語の映画を意味し、ムンバイの旧称「ボンベイ」と映画産業のメッカであるアメリカの「ハリウッド」の語呂合わせでボリウッドと名付けられた。



最近ずっと気になっていた2作品を観たので、是非ここで紹介したいと思う。

その2作とは、『The Namesake(邦題:その名にちなんで)』 と『The Lunchbox(邦題:めぐり逢わせのお弁当)』。どちらも俗にいうインディフィルムでありながら、映画ファンを魅了し、高い評価を得た作品たちである。

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『The Namesake(邦題:その名にちなんで)』 は、インドから米国に移民した家族の30年を描いた作品で、新人作家として極めて異例なピューリッツァー賞を受賞したインド系アメリカ人の女性作家Jhumpa Lahiri(ジュンパ・ラヒリ)のベストセラー小説を映画化したものだ。家族の絆と愛を描いた、いわゆるヒューマンドラマである。


私は友人に勧められてこの本を読み、非常に感情移入してしまい、私にとって特別な一冊となった。

作品の中で移民した家族は、インドのベンガル出身であるが、作者のジュンパ自身がベンガル出身の両親を持っていることから、彼女自身とてもパーソナル(個人的)な小説だとしている。



Namesakeとは、直訳しづらいのだが、名前をもらった人、名前の由来、同じもしくは似た名前を持つ者、を意味する。

実在するロシア人作家のニコライ・ゴーゴリの名前から、ゴーゴリと名付けられたインド系2世アメリカ人として育つ息子の名前をめぐる物語を軸としながら、インドから移民してきた両親の苦悩と孤独、伝統を重んじながらもアメリカへ適応していこうと努める様、一方で、ニューヨーク州で生まれ育った子供達の価値観の違いや、その子供達のアイデンティティの葛藤などを描いている。



親子の愛情、家族の絆、すれ違いや関係修復への努力などを浮き彫りにしていく。インドとアメリカという2つの国、文化、親子2世代を描いた作品。




私自身、生まれて間もなく家族とともにアメリカに引っ越し、アジア人のほとんどいない南部で幼少期を育ち、その後また日本でも青春時代を育ったため、アイデンティティを見失うことも未だに多々あり、本作を読んだ時も、フィルム化された映画を観ながらも、ものすごく通じる部分があった。また、渡米する前は日本で30年を過ごした私の両親もきっとアメリカに初めて来て、同じように葛藤や、家族親戚と離れていることの寂しさ、日本人である自分の子供であるにも関わらず、私と姉がどんどん西洋化して育っていることへの複雑な思いを経験したことだろうと想像した。


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続いては、『The Lunchbox(邦題:めぐり逢わせのお弁当)』。



イラはムンバイ郊外に暮らす若い主婦で、そっけなく冷たい夫にして愛が冷めたような感じを受け、関係性を修復するきっかけになればと愛情を込めたお弁当を毎日作っている。そのお弁当を、ダッバーワーラー(お弁当運び屋さん)に頼み、市内にある夫のオフィスに届けてもらっている。心をこめて作ったお弁当が、ある日、お弁当箱がすっかり空になって戻ってくる。イラは夫が完食してくれたと喜んでいたが、どうやらお弁当は全く別の他人に配達されているようだということに気付く。



そのお弁当を毎日のように食べているのは、定年をまもなく迎える孤独な会計士のサージャン・フェルナンデス。彼は家の近所にある食堂と契約して毎日お弁当を作り届けてもらっていたが、ある日から手の込んだ美味しいお弁当に変わっていたので、不思議に感じていたが、やがて、イラがお弁当の中に入れた手紙を読み、イラが作っていたお弁当だと知る。



とはいっても、2人は顔も知らない赤の他人。
2人はお弁当に手紙を入れ、毎日手紙を交換するようになる。

仕事も淡々とこなし、他人に興味を示さないサージャンは同僚たちからも冷たい人だと思われていただが、イラのお弁当と、イラとの文通、そして自分の仕事を引き継ぐ相手である後輩のアスラムとの出会いによって、サージャンは穏やかさを取り戻し、心もほぐかれていく様が描かれている。



ちなみに、このムンバイ独自の弁当配達を調査したハーバード大学の研究によると、ダッパーワーラー(お弁当運び屋さん)が誤配する確率というのは、600万分の1だとか。



この奇跡のような出来事から、2人はどんな変化を遂げて行くのか。


サージャンとイラは果たして文通をこえ、実際に会う日が訪れるのか。

是非DVDなどで続きを見ていただきたい。


お弁当を通して、登場人物たちの生活、人生、価値観などが浮き彫りになる、そんな映画。

すごく印象に残る映画内での言葉があり、それは「人は間違った電車に乗っても、必ず正しい場所に辿り着く」というもの。



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どちらの作品も、派手さはないが、心には強く何かを訴えかけるような力強さのある映画である。

ハリウッドのように莫大なお金をかけた超大作ではないがゆえに、もっと人間同士の関係やコミュニケーションなどいった根本的な部分にフォーカスをした映画が生まれるのかもしれない。

ようこそ、ボリウッドの世界へ。

Tuesday, February 24, 2015

The Academy Awards 2015 (第87回アカデミー賞)


アメリカ時間の2月22日(日)、今年も映画の祭典、アカデミー賞がハリウッドで開催された。





いつも晴天のロサンゼルスだが、今年は雨の中のレッドカーペットとなった。

“今年は予想がしづらい”と毎年言っているような気もするが、今年は本当に予想がしづらかった。全てのノミネート作品が素晴らしかった一方、ダントツ飛び抜けているいう作品も特になかった印象だ。また、好みによっても大きく感想や評価が違う作品が揃っていることもある。



しかし、ふたを開けてみれば、『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』の大きな勝利となった。


『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)』も4部門で受賞し、作品に相応する勝利を得たと言える。


ゴールデングローブ賞をはじめ、注目度の高かった Boyhood(邦題:6才のボクが、大人になるまで。)』は意外にも助演女優賞の1部門のみの受賞にとどまった。



以下、主要部門でのノミネート作品と受賞作品を一挙公開!


And the Oscar went to...


★Best Picture(作品賞)

American Sniper(邦題:アメリカン・スナイパー)
WINNER: 『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』
Boyhood(邦題:6才のボクが、大人になるまで。)
『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)』
The Imitation Game(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)
『Selma(邦題:セルマ)』
The Theory of Everything(邦題:博士と彼女のセオリー)
『Whiplash(邦題:セッション)』



★Best Director(監督賞)

Wes Anderson(ウェス・アンダーソン), 『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)』
WINNER: Alejandro González Iñárrituアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥー), 『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』
Richard Linklater(リチャード・リンクレイタ, 『Boyhood (邦題:6才のボクが、大人になるまで。)』 
Bennett Miller(ベネット・ミラー), 『Foxcatcher (邦題:フォックスキャッチャー)』
Morten Tyldum(モルテン・ティルデゥム), 『The Imitation Game(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)

★Best Actress (主演女優賞)

Marion Cotillard(マリオン・コティヤール), 『Two Days, One Night(邦題:サンドラの週末)』
Felicity Jones(フェリシティ・ジョーンズ)The Theory of Everything(邦題:博士と彼女のセオリー)』
WINNER: Julianne Moore(ジュリアン・ムーア)Still Alice(邦題:アリスのままで)』
Rosamund Pike(ロザムンド・パイク),  Gone Girl(邦題:ゴーン・ガール)』
Reese Witherspoon(リース・ウィザースプーン)Wild(邦題:未定)』


★Best Actor (主演男優賞)
Steve Carell(スティーヴ・カレル), 『Foxcatcher(邦題:フォックスキャッチャー)』
Bradly Cooper(ブラッドリー・クーパー),
American Sniper(邦題:アメリカン・スナイパー)
Bennedict Cumberbatch(ベネディクト・カンバ―バッチ), 『The Imitation Game(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)』
Michael Keaton(マイケル・キートン), 『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』
WINNER: Eddie Redmayne(エディ・レッドメイン), 『The Theory of Everything(邦題:博士と彼女のセオリー)』


★Best Supporting Actress (助演女優賞)
WINNER: Patricia Arquette(パトリシア・アークエット), 『Boyhood(邦題:6才のボクが、大人になるまで。)』

Laura Dern, 『Wild(邦題:未定)』
Keira Knightley(キーラ・ナイトレイ), 『TheImitation Game(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)』
Emma Stone(エマ・ストーン), 『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』
Meryl Streep(メリル・ストリープ), 『Into the Woods(邦題:インテゥ・ザ・ウッズ)』

★Best Supporting Actor (助演男優賞)
Robert Duvall(ロバート・デュヴァル)The Judge(邦題:ジャッジ 裁かれる判事)』
Edward Norton(エドワード・ノートン), Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』
Mark Ruffalo(マーク・ラファロ),  Foxcatcher(邦題:フォックスキャッチャー)』
WINNER: J.K. SimmonsJ.K.シモンズ)Whiplash(邦題:セッション)』



★Best Adapted Screenplay (脚色賞)Paul Thomas Anderson(ポール・トーマス・アンダーソン), 『Inherent Vice(邦題:未定)』
Damien Chazelle(ダミエン・シャゼル), 『Whiplash(邦題:セッション)』
Jason Hall(ジェイソン・ホール), 
American Sniper(邦題:アメリカン・スナイパー)
Anthony McCarten(アンソニー・マッカ―テン), 『The Theory of Everything(邦題:博士と彼女のセオリー)』
WINNER: Graham Moore(グラハム・ムーア), 『TheImitation Game(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)』
★Best Original Screenplay(脚本賞)
Wes Anderson(ウェス・アンダーソン)『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)』
Dan Futterman and E. Max Frye(ダン・フッターマン、E.マックス・フライ), 『Foxcatcher(邦題:フォックスキャッチャー)』
Dan Gilroy(ダン・ギルロイ), 『Nightcrawler(邦題:未定)』
WINNER: Alejandro Gonzalez Inarritu(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥー), Nicholas Giacobone(ニコラス・ジャコボーン), Alexander Dinelaris(アレクサンダー・ディネラリス)and Armando Bo(アルマンド・ボー), 『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』
Richard Linklater(リチャード・リンクレイタ―), 『Boyhood(邦題:6才のボクが、大人になるまで。)』


★Best Film Editing(編集賞)
American Sniper(邦題:アメリカン・スナイパー)
『Boyhood(邦題:6才のボクが、大人になるまで。)』
『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)』
『TheImitation Game(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)』
WINNER: 『Whiplash(邦題:セッション)』

★Best Cinematography(撮影賞)
Roger Deakins(ロジャー・ディーキンス), 『Unbroken(邦題:未定)』
WINNER: Emmanuel Lubezki(エマニュエル・ルベツキ), 『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』
Dick Pope(ディック・ポープ), 『Mr. Turner(邦題:ターナー、光に愛を求めて)』
Robert Yeoman(ロバート・D・イェーマン), 『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)』
Lukasz Zal and Ryszard Lenczewski, 『Ida(邦題:未定)』
★Best Visual Effects(視覚効果賞)
『Captain America: The Winter Soldier (邦題:キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー)』
『Dawn of the Planet of the Apes(邦題:猿の惑星:新世紀)』
『Guardians of the Galaxy(邦題:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー)』
WINNER: 『Interstellar(邦題:インターステラー)』
『X-Men: Days of Future Past(邦題:X-MEN:フューチャー&パスト)』


Best Original Song(歌曲賞)Selma(邦題:セルマ)の主題歌で、Glory”という作品。作詞・作曲・歌は全てJohn Legend(ジョン・レジェンド)とCommon(コモン)による。

Best Original Score (作曲賞)は作曲者Alexandre Desplat(アレクサンドル・デスプラ)が 『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)』 と The Imitation Game(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)』  の2作品でノミネートされ、前者で受賞を果たした。これまで5作品以上でノミネート歴のある、有名作曲家である。

Best Costume Design(衣装デザイン賞), Best Makeup and Hairstyling(メイクアップ&ヘアスタイリング賞), Best Production Design(美術賞)の3部門で見事全てに選ばれたのは『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)


Best Documentary Feature(長編ドキュメンタリー映画賞)はエドワード・スノーデンのスパイスキャンダルをドキュメンタリー化した『Citizenfour(邦題:未定)』が受賞。

Best Animated Feature(長編アニメ映画賞)は日本でも大ヒットとなった 『Big Hero 6(邦題:ベイマックス)』 が受賞し、高畑 勲監督の『かぐや姫の物語(洋題:The Tale of The Princess Kaguya)』は受賞ならず。

**以上**


個人的には作品賞と監督賞以外は概ね、いや、とても納得だ。
主演男優賞と主演女優賞は特に誰が選ばれてもおかしくないほどの接戦だったと思うが、その中で、順当な受賞だったと言える。

The Theory of Everything(邦題:博士と彼女のセオリー)』で非常に難しい役で素晴らしい演技を披露したEddie Redmayne(エディ・レッドメイン)の受賞は本当に嬉しい。欲を言えば、共演したFelicity Jones(フェリシティ―・ジョーンズ)とのダブル受賞を見たかったが、アルツハイマー系の役どころを演じたJulianne Moore(ジュリアン・ムーア)の方が受賞可能性は元々高かったように思う。




助演女優賞と助演男優賞は、ほぼゴールデン・グローブ賞の時と同じ顔ぶれとなったが、受賞者はPatricia Arquette(パトリシア・アークエット)J.K. SimmonsJ.K.シモンズ)全く同じ結果となった。


受賞式における個人的なハイライトは


1.助演女優賞に選ばれたPatricia Arquette(パトリシア・アークエット)の力強いスピーチ

2.脚色賞に選ばれたGraham Moore(グラハム・ムーア)のスピーチ

3.ハリウッドでは比較的新星のEddie Redmayne(エディ・レッドメイン)の主演男優賞の受賞

4.『Interstellar(邦題:インターステラー)』 の視覚効果賞の受賞
5.『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』の撮影賞の受賞
6.往年のハリウッドスター、Julie AndrewsがパフォーマンスステージでLady Gaga(レディ・ガガ)に登場したシーン。素敵に歳をとっていたことに感動
7.『Birdman(邦題:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))』、作品賞と監督賞の主要2部門でのダブル受賞
8.『The Grand Budapest Hotel(邦題:グランド・ブダペスト・ホテル)』の4部門での受賞


アカデミー会員の選ぶ作品や俳優たちなど、バイアスがかっているとはいえ、やっぱり1年に1度のこのアカデミー賞受賞式はドキドキしながら、観てしまうものだ。

2014-2015年も素晴らしい作品が世に出たが、2016年もきっとたくさんの作品と出会えることだろう。



今年のアカデミー賞でノミネートされた作品は既にほとんど見たが、まだ観ていない作品では『Ida(邦題:未定)』が気になっている。ポーランドのフィルムであり、ポーランドの映画としては初めて撮影賞と外国語映画賞にノミネートされた作品である。受賞はならなかったが、是非観てみたい作品だ。





Sunday, February 1, 2015

American Sniper (邦題:アメリカン・スナイパー/日本公開予定2015年2月21日) 



本作『American Sniper (邦題:アメリカン・スナイパー)』は実話に基づいており、Chris Kyle(クリス・カイル)という米国軍人を題材にしている。



クリスは、U.S. Navy SEALs 在籍中に敵を255人(うち米国国防総省が正式に認定しているのは160人)殺害したことから、米国軍史上、最強の射手として知られている人物だ。その功績から、米軍内では“Legend(伝説)”というあだ名が付けられている。




脚本は、そんな彼の自伝『American Sniper:The Autobiography of the Most Lethal Sniper in U.S. Military History(原題:アメリカン・スナイパー:ネイビー・シールズ最強の狙撃手)』が元となっており、奥さんであるTaya Kyle(タヤ・カイル)も本映画のプロダクションの過程に深く関わったようだ。



※本映画について、そしてクリス・カイルについて、ウィキペディアなどで事前に調べずに是非観て欲しい。そのほうが映画を楽しんでいただけると思う。


Chris Kyle(クリス・カイル)を演じたのは、世界中で最もセクシーな男性に選ばれたこともある俳優のBradley Cooper (ブラッドリー・クーパー)。役柄にフィットするため、体重も増やし、テキサス訛りを身に付けて撮影入りをした。そしてクリスの妻、Taya Kyle(タヤ・カイル)は女優のSienna Miller (シエナ・ミラー)が演じた。




本作品は、色んな意味で非常に話題性のある作品だ。
理由を大きく5つ挙げると...

1. 監督兼プロデューサーは大御所Clint Eastwood(クリント・イーストウッド)。

2. 第87回アカデミー賞にも、作品賞、主演男優賞、脚本賞など6部門でノミネートされている。ちなみに、Bradley Cooper (ブラッドリー・クーパー)は昨年の『American Hustle (邦題: アメリカン・ハッスル)』、おととしの『Silver Linings Playbook (邦題: 世界に一つだけのプレイブック)』と、3年連続でオスカーにノミネートされているので、今年受賞できるかも注目だ。

3. アメリカでの1月16日の拡大公開からわずか2週間で劇場公開規模、興行収入に驚異的な数字となっている。

4. 本作品を巡っては批評家からの高い評価が得られているものの、アメリカ国内の保守派とリベラル派で大論争が繰り広げられている。同時にクリス・カイル本人についても、様々な論争が湧き起こっている。

5. 現在進行中の戦争を題材としており、米国への中東エリアへの武力介入、そして米国軍が中東エリアでどのようなことをしているか、についてリアルに取り上げている。




では、ストーリーを掻い摘んで紹介したい。

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テキサス生まれのカイルは、幼少期から父親にライフル銃を使っての狩猟を教わっていたが、その後はロデオ・カーウボーイとして生活をしていた。ある時、1998年ケニアとタンザニアでアメリカ大使館が爆破されたことをニュースで見て、アメリカ海軍入りを決める。その後、過酷で厳しい訓練を経て、U.S. Navy SEALs(アメリカ海軍の特殊部隊)に見事入隊を果たす。

カイルは、将来の妻となるタヤとバーで出会い、結婚をするが、国際テロ組織アルカイダによるアメリカ同時多発テロ事件の後、すぐにイラクへ派遣される。



彼はこの派遣の際に、初めて人を殺すこととなる。アメリカ軍を爆破して殺そうとした女性と子供の2人だ。

その後も、彼は使命に従い、スナイパーとして大活躍し、撃ち殺した人の数が多数にのぼることから、レジェンドというニックネームがつくまでとなった。



その一方で、良い人間でありたい気持ちも強く持っているカイルは、人を撃ち殺すとことに苦しみを感じ、葛藤する。また、それ以上に同士たちを助けられなかった無念さに辛さを感じる。





一度目の派遣を終え、妻の元に戻り、子供も生まれたことによって、葛藤は一層強くなる。アメリカに戻ってもなかなかイラク現地でのことが頭から離れない。妻も、心ここにあらずのカイルを責め、身体も心も家族とともにいて欲しいと願う。

しかし、その後も二度目、三度目とイラクへの派遣が続いていく...





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続きは是非映画で!


本作は世間からも批評家たちからも、とても評判の良い映画だ。

とにかくアメリカ人が大好きそうな映画だ。それは映画館でも肌で感じた。

アメリカの映画館では、観客が好きなところで笑ったり、拍手したりする。映画を観ている時でも感情を隠したり恥ずかしがったりすることはないので、感情表現が素直だ。愛国心が非常に強い国でもあるためか、本作ではたくさん拍手が起こった。日本ではなかなか考えられないことである。


私自身、断固として戦争否定派なので戦争の肯定は絶対にしないが、この映画を単品で考えた場合、アメリカの中東介入についても知ることができ、更に自伝映画としても良い映画だと思った。




一方で、他のクリント・イーストウッドの監督作品に比べてしまうと、正直うーんという感じだ。
系統は似ているし、メッセージ性は強いが、記憶に残る映画ではなかったように思う。
『Mystic River(邦題:ミスティック・リバー)』、『Million Dollar Baby(邦題:ミリオンダラー・ベイビー)』、『Gran Torino(邦題:グラン・トリノ)』のようなずっしり重くて頭と胸に焼きつけられるような強烈さはない




Japanese ver. trailer




Thursday, January 22, 2015

The Imitation Game (邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密、日本公開予定2015年3月13日)


遅ばせながら、来る2月に行われるアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞など8部門にノミネートされた『The Imitation Game (邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密を観てきた。


 

本作品を監督したノルウェー出身の映画監督、Morten Tyldum(モルテン・ティルデゥム)にとっては初めての英語作品にして、華々しいハリウッドデビューとなった。

この作品は、Alan Turing(アラン・チューリング)という天才数学者、暗号解読者の伝記映画であり、第2次世界大戦中にドイツ海軍を攻略するために、イギリス政府が着目したナチス・ドイツの『エニグマ』という暗号機を利用した通信を解読するまでの道のりを描いた作品である。



チューリング博士はコンピュータ科学、あるいは人工知能の父とも言われ、コンピュータ好き、エンジニアなどでは知らない人はいないのではないだろうか。彼はコンピュータは人間と同様にとは言えなくとも、“考える”ことができると信じていた。




ストーリーを簡単に紹介すると...

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時は1939年、第2次世界大戦中、ドイツ軍は欧州各国をすさまじい勢いで攻め、イギリス軍は厳しい戦いを強いられている。イギリス政府はドイツ軍の通信を行う暗号機、『エニグマ』の解読が、ドイツ軍の勢いを抑制し、戦争で勝利を抑えるために必要不可欠だと考える。



当初は類まれた言語学者による解読を進めていたが、数学による解読にシフトしていく。その秘密部隊Hut 8を指揮したのが、Alan Turing(アラン・チューリング)だ。

彼らはイギリス郊外のブレッチリー・パークに部隊を構え、刻々と悪化していく戦争の状況なかで、時間と闘いながら、解読に向けて試行錯誤する。



チューリング博士は、機械に勝つには機械しかないと考え、仲間や政府上層部の反感を買いながらも解読できる装置を作ろうとする。

だが、チューリング博士は様々な逆風に遭遇することとなる。



これまで絶対に不可能とされていたエニグマの解読に果たしてチューリング博士率いる部隊は成功できるのか?

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ここからはストーリー後半を書くので、ネタバレ注意


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遂に1939年12月、チューリング博士のチームはエニグマのインジケーターシステムの基本部分を解明することに成功する。



しかし、暗号解読という機密事項を扱う仕事だったゆえに、この発見、解読の業績は秘密とされたため、彼らは戦争を短縮し、多くの命を救った事実に大きく貢献しながらも、英雄扱いされることはなかった。

1945年、戦時中の功績により、OBE(大英帝国勲章)を授与されたが、近しい友人や家族すらそのことを知らなかった。



それどころか、その後、チューリング博士は同性愛者として罰せられ、政府から厳しい仕打ちを受ける。(当時のイギリスでは同性愛は違法であった。) 彼の功績を知らない世間からも公然と辱めを受けることとなる。

彼は、入獄を避けるために、女性ホルモンを注入するホルモン療法を強要され、それの苦しみからか、41歳の時に自殺した。

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イギリス政府はこの特別組織と極秘任務について、50年以上も秘密としていた。


チューリング博士の罪(=同性愛)については、その後、2012年に英国貴族院に正式な恩赦の法案が提出され、2013年にようやくエリザベス2世女王の名をもって正式に恩赦が発行され、キャメロン首相も改めてチューリング博士の功績を称える声明を発表した。




チューリング博士を演じたのはBenedict Cumberbatch(ベネディクト・カンバ―バッチ)、博士と一時期婚約をしていた同僚のJoan Clarke(ジョアン・クラーク)をKeira Knightley(キーラ・ナイトレイ)が演じた。言うまでもないが、ともにイギリス映画界のトップスターである。どちらもそれぞれ主演男優賞として、そして助演女優賞としてアカデミー賞にノミネートされている。ベネディクト・カンバ―バッチの演技は非常に素晴らしく、感情移入してしまうほどだったが、キーラ・ナイトレイに関しては、演技自体はまぁ普通というのが個人的な感想だ。ただ、役柄は素晴らしかった。チューリング博士をリスペクトし、支え、全てを受け入れ、見守った女性。




ジョン・ナッシュ博士の伝記映画『Beautiful Mind(邦題:ビューティフル・マインド)』にも、スティーヴン・ホーキング博士『The Theory of Everything(邦題:博士と彼女のセオリー)』にも、共通して言えることだが、天才というか、奇跡を起こす男の傍には必ず賢くて素敵な女性がいるものだ。


3月には日本でも公開される予定になっているので、是非観ていただきたい。