Thursday, June 27, 2013

Never Let Me Go (邦題:わたしを離さないで)



読書が三度の飯よりも好きな私は、ブックストアをぶらぶらするのが一つの趣味である。

私が『Never Let Me Go(邦題:わたしを離さないで)』と最初に出会ったのは、なにか面白い小説がないか、いつものようにブックストアを彷徨っている時だった。

 


事前にこの本について知っていたわけでも、前評判を聞いていたわけでもなく、すごくランダムな出会いだった。

イギリス最高の文学賞“ブッカー賞”作家、Kazuo Ishiguro(カズオ・イシグロ)の名前は勿論知っていたが、彼の小説は読んだことがなかった。それは、彼の書く物語は、とてつもなく哀しく、暗い、寂しい物語だというイメージがあったからである。

それもそうだろう、彼の代表作のタイトルを見てみると
The Unconsoled(和訳:充たされざる者)(1995)
When We Were Orphans(和訳:わたしたちが孤児だったころ)(2000)
Never Let Me Go(和訳:わたしを離さないで)(2005)

このイメージはあながち間違っていない。

一見、ラブストーリーを思わせるこのタイトル。

この物語は、サイエンス・フィクション(SF)にカテゴリーされているが、どこらかといえば、ヒューマン、そして社会派の物語であるように思う。また、ラブストーリーの要素も多いにあるが、題名から連想するような「ザ・ラブストーリー」では決してない。

現実でも、悲しいかな実際にないとは言えないのであろうが、話の内容が、社会の禁断区域に触れており、とても残酷がゆえに、かなりの批判も浴びた作品である。

人身/臓器売買(売春目的ではない)、クローン、臓器移植などがテーマとなっているので、小説を読んでみようと思う方も、映画を観てみようという方も、どんよりと暗い気持ちになることを覚悟して読んで/観て欲しい。

近代的あるいは近未来的なトピックと、舞台が過去(1970年代終わり~1994年くらい)なのも面白い。

“Never Let Me Go”は作品中に出てくる歌のフレーズから引用され、題名としてつけられている。



ココからはネタバレ注意↓


外界から完全に隔離された謎の寄宿(全寮制)学校で育ったキャシー、ルース、トミーの3人。物語の語り手はキャシーである。

その寄宿はイギリスのヘールシャムという都心から離れた町にあり、そこで繰り広げられる彼女達の奇妙な生活を描くところからストーリーが始まる。

彼女たちが、何故ここの寄宿舎にいるのか。その理由が物語の途中から徐々に明らかになってくる。

そう、彼女たちは、ドナーになるために産まれてきた子供達(クローン)なのである。だから、彼女達は様々なかたちで能力を試され、規制され、もちろん外界とのつながりを遮断されている状態で、日々の生活を送っている。

そんな彼女達3人は、18歳の時に寄宿を巣立ち、農場のコテージで一緒に共同生活を始める。その後、コテージをも巣立ち、外界で離ればなれに各々の生活を送って行く。それぞれに定められた過酷な運命を目の当たりにしながら、人生をまっとうしようと懸命に生きていく姿が物語の後半に描かれている。



映画は2010年にアメリカで公開され、翌年にイギリスで公開された。

フィルムで観ると、小説内での物語を少し早送りした感は否めないものの、風景、情景ふくめ、静寂さなど非常に忠実に再現できている。イギリスの田舎町に自分もいるような気分になるくらい、映像がとても美しい。

キャストはこちらの映画と同年に公開された『An Education (邦題:17歳の肖像)』でアカデミー主演女優賞候補となったイギリス人女優キャリー・マリガンが主人公キャシー役を演じる。日本では『The Great Gatsby(邦題:華麗なるギャツビー)』のヒロイン、デイジー役と言った方が馴染み深い上に、タイムリーかもしれない。

ルース役はこちらもイギリスの若手女優で、日本でも『Pirates of the Caribbean(邦題:パイレーツ・オブ・カリビアン )』シリーズや『Atonement(邦題:つぐない)』などで非常に有名なキーラ・ナイトレイ、トミー役は『The Amazing Spider-Man(邦題:アメイジング・スパイダーマン)』や『The Social Network(邦題:ソーシャル・ネットワーク)』でお馴染みのアンドリュー・ガーフィールド。3人は、いずれもイギリス国籍を持っているイギリス映画界で今最もホットな若手のアクター達である。

キャリー・マリガンとキーラ・ナイトレイの共演は2005年のフィルム『Pride and Prejudice(邦題:プライドと偏見)』ぶり。ただ本作では、『プライドと偏見』でデビューし、脇役だったキャリー・マリガンが主人公兼語り手を務める。

キーラ・ナイトレイは今まで彼女が出演したどの映画のどの役よりも、ルース役がハマり役だったように思う。

3人とも、素朴さ、そして自らの 運命に対して葛藤する姿、その中でも自らの意思に従い必死に生きようとする姿を熱演している。

重い話ではあるが、救いがないわけではない上、風景も繊細で美しく、極端な設定の中にも自分に置き換えて“生きる”ということを考えさせられる映画でもあるので、是非一度は観ていただきたい映画である。


Saturday, June 22, 2013

Olympus Has Fallen (邦題:エンド・オブ・ホワイトハウス)


こちら『Olympus Has Fallen』も日本では先日6月8日に公開されたばかりの映画



邦題はエンド・オブ・ホワイトハウス。あらすじには合っているだが、この映画で邦題をエンド・オブ・ホワイトハウスにしてしまうと、今度出てくる 『White House Down』の邦題は何になるのだろうか。とても紛らわしくなりそうだ。

それはさておき、この映画はとてもよくありがちなアメリカ映画である。展開が想像できて、どれだけ酷似していても、それなりに観客が集まる映画でもある。

アメリカに対してテロ行為をしかけ、一人のヒーローがその危機をしのぎ、最終的にアメリカがテロに勝つという展開のストーリー。そしてそのヒーローというのは大概、元警察官、元兵士、元FBI、元CIAといった何らかの国家組織に属していた過去があり、しかしながら何かしらの理由で一戦を退き、しがない一般人として生活しているが、危機を前にして、突然またこれまでの訓練を活かしてヒーローらしく敵を次々と倒していき、最後には国を救い、称賛をされるのだ。 



この映画でのヒーローであるマイク・バニング役を演じるのは、このフィルムのプロデューサーも務めているジェラルド・バトラーだ。

そして、映画のプロットは、ホワイトハウスが北朝鮮のテロリストに占拠され、合衆国大統領が人質にとられたというもの

こういうプロットは世界の中でも最も権力があり、愛国心が強いアメリカならではの映画だ。日本で同じ設定は想像し難い。

映画館でこの映画を見終わった後、アメリカ人はほぼ全員が拍手をするから、また面白い。何度同じシナリオを観ても、やはりアメリカ強し!という終わり方に満足をするのである。アメリカ人の愛国心が強さには感心することが多々あるが、これもその一つだ。ある意味単純だが、多国籍の民族を受け入れていて、多くの言語、宗教、人種、価値観はあれど、ホワイトハウス、アメリカ国旗、大統領といったものや人に、どのような場面においてもいっき心を一つにするのだ。

アメリカでは、良い映画であったり、満足をしたりした際に、拍手をしたり、面白いシーンでは大声を出して笑ったり、映画館内で感情を表現する文化が浸透しているが、アメリカが強い!という映画の後には、また違った種類の拍手が必ずといっていいほど館内に沸き上がるのである。

私も基本的にこの手の映画は好きなので、普通に楽しむことができた。ストーリーは最初から予想ができているが、やはりそれでもスリルやアクションを観るのは面白い。感情移入しすぎず楽に観ることができるという良い点もある。

そして何よりこの映画の良い点は、ヒーローであるマイク・バニングと大統領の関係性が映画の最初で分かるので、それがゆえにどうしてマイク・バニングがそれほど体を張って大統領とその家族、ホワイトハウスを救いたいのかの動機が明確となり、話がうまく繋がって行く、ということだ。ただ単にテロに立ち向かっているのではなく、個人的な大統領とのつながりも彼にパワーを与えているのだ。(そう、少し24のジャック・バウワーを思い出す人もいることだろう。)

テロリスト、カン役のリック・ユーンは、彼の顔や表情は謎の恐ろしさがあるのでなかなかよかった。日本では『Die Another Day(邦題:007 ダイ・アナザー・デイ)』のザオ役として見覚えがある人もいるのではないだろうか。

少し残念だったのが、大統領役のアーロン・エッカートが大統領っぽい威厳やカリスマ性があるタイプではないこと。特にアメリカの大統領像とは異なる。

また、モーガン・フリーマンが好きだから観よう!という人にもおすすめはしない。映画のポスターなどでも真ん中に写っているが、特にモーガン・フリーマンは鍵を握る役でもなければ、それほど存在感があるわけでもなく、ちょい役にすぎない。

そして、アントワーン・ フークア監督の『Training Day(邦題:トレーニング・デイ)』と比べてしまうと、少し物足りない。彼の『Shooter(邦題:ザ・シューター)』が好きな人は、きっと好きだと思う。同じようなスリルとアクションを楽しめる上に、主人公も同じような人物像だ。


ジェラルド・バトラーは想像以上によかった。これまで彼が出演している作品は『The Phantom of the Opera(邦題:オペラ座の怪人)』、『P.S. I Love You (邦題:P.S.アイラブユー)』、そしてラブコメディ『The Ugly Truth(邦題:男と女の不都合な真実)』しか観たことがなかった為、恋愛もののイメージが強かったが、アクションもかなりいけると純粋に驚き感動した。しかしあのワイルドさ、肉体美を考えると、全くもって不思議ではない。強さ、迫力、緊迫感もすごく出ていた。

もっと彼のアクションスリラーが観てみたい。


ところで余談だが、ジェラルド・バトラーといえば。
別にすごく似てるわけではないのだけれど、何故かダニエル・クレイグとかぶるのは私だけであろうか?

年齢もほぼ変わらないし、ダニエル・クレイグはUK、ジェラルド・バトラーはスコットランド (UK) 出身でそれも近い。

もし本当にダニエル・クレイグがギャラの値上げ交渉をしているせいで、ドラゴン・タトゥーの女の続編制作が難航しているのなら、ジェラルド・バトラーを代わりに起用しても全然問題がないような気がする。むしろ、ジェラルド・バトラーの方がセクシーで若く見えるから、ジェラルド・バトラーの方が良いのではないだろうか。私にはどうしても、ダニエル・クレイグとルーニー・マーラの絡みがおっさんと若い娘にしか見えないから、映画に恋の要素も含めている以上、観てて少し厳しい感じがするのだが

ダニエル・クレイグは007シリーズのジェームズ・ボンドだけやってくれていていいのに。

Tuesday, June 18, 2013

To Rome with Love (邦題:ローマでアモーレ )


日本ではつい先日、6月8日に公開されたばかりのオムニバスラブコメディ『To Rome with Love(邦題:ローマでアモーレ)』。

ローマでアモーレ?!

この邦題はどうしたものか。

邦題を知り、え?と首を傾げることはしばしばあるけれど、この邦題も間違いなくその一つ。最初は冗談かと思ったくらい、ちょっと恥ずかしくなるくらいのネーミング。

意味自体も変わってしまっている。ローマへ愛を込めて、ではなく、ローマで恋愛、ローマで愛するといった類いの意味へと変わってしまっている。

確かに映画の内容には反していないし、コミカルな名前にしたかったのかもしれないが、それにしても個人的には言葉を失ってしまうほど残念だ。

気付いた方もいらっしゃるかもしれないが、私のこのブログのタイトル、『To Hollywood With Love』は、 この映画の原題を文字って付けたもの。だから、『From Hollywood With Love(ハリウッドより愛を込めて)』ではなく、『To Hollywood With Love(ハリウッドへ愛を込めて)』となっている。そして、後者の方が、ハリウッド映画に対する情熱と敬意を表したかった私としてはしっくりきたのだ。

が、しかし。この映画の邦題に従うと、このブログの和訳は『ハリウッドでアモーレ』になるのだろうか。。。。。

ちょっと心外である。


それはさておき、ウッディ・アレンが監督で、しかも5年ぶりに自身も主人公として登場するということ、そして『The Social Network(邦題:ソーシャル・ネットワーク)』のマーク・ザッカーバーグ役であるジェシー・アイゼンバーグも出演している ことに魅かれ、私は半年ほど前にこの映画を観た。



中身やメッセージ性はあまりないけれど、気軽に観ることのできる陽気な映画だ。

また、イタリアの街並/景色、そして空気/雰囲気を楽しむことができるので、見終わった後にイタリアに行きたくなることが必至だ。ストーリーの組み立て方も面白い。実際にハリウッドでは無名なイタリア人の俳優や女優も起用しているので、よりイタリアの雰囲気が出ている。

オムニバスといっても、それぞれの登場人物が交わるわけではない。通常オムニバス映画で多くみられるのが、登場人物同士が実は繋がっているという展開。それとは異なり、それぞれのカップルは交わることなく切り離されており、同じ場所を舞台としているというのみだ。

ローマを舞台に、4組のカップルの物語がコメディ調に繰り広げられる。

一組目のカップルは、アメリカから夏休みの旅行でローマに来ていた女の子ヘイリー役のアリソン・ピル がイタリア人の男性と出会い婚約するストーリー。婚約の報告を聞き、ヘイリーの両親がアメリカからイタリアにやってくるのだが、そのヘイリーの父親として登場するのが本作品の監督でもあるウッディ・アレンである。

二組目のカップルは新婚のアントニオとミリーの話。新婦のミリーが用事を住ませに外出している間に売春婦アンナ役のペネロペ・クルスが間違えてアントニオの部屋に送られて来るというところから始まる。

三組目はカップルというよりも一人の男性を中心としたストーリーで、平凡な夫が一日にして突然町中の有名人になってしまう話。

そして、四組目は、有名な建築家ジョンが昔住んでいたローマを奥さんと子供と訪れ、懐かしみながら町中を歩いているうちに出会う若い学生カップルの話。このカップルの彼氏ジャック役がジェシー・アイゼンバーグである。このカップルの関係を脅かす彼女の友だちモニカとして登場するのがエレン・ペイジだ。

私はこのフィルムに特に期待もしていなかったので、実際に観て落胆することもなく、それなりに楽しむことができた。実際に声を出して笑う場面もいくつかあった。

ウッディ・アレン作品史上最低という声も多い一方で、好きな人はすごく好きな映画だと思う。『Midnight in Paris(邦題:ミッドナイト・イン・パリ)』 や『Manhattan(邦題:マンハッタン)』が好きな人がこの作品を好きかと言われれば、分からないが、『Vicky Cristina Barcelona(邦題:それでも恋するバルセロナ)』のようなウッディ・アレン作品が好きな人は楽しめるのではないだろうか。

ただ、“良い邦題の映画にハズレなし”といういわれもあるが、これもあながち間違ってはいないだろう。この映画の場合は逆であるが


女性陣は前述の通り、『Milk(邦題:ミルク)』や『Midnight in Paris(邦題:ミッドナイト・イン・パリ)』のアリソン・ピル、『Juno(邦題:JUNO/ジュノ)』や『Inception(邦題:インセプション)』の若手女優エレン・ペイジや、『Vicky Cristina Barcelona(邦題:それでも恋するバルセロナ)』で第81回アカデミー助演女優賞に輝いたペネロペ・クルスらが登場する。アリソン・ピルを除いて、個人的にはエレン・ペイジもペネロペ・クルスもあまり好きではない女優なのだがストーリー自体が軽いタッチであるため、この作品ではそれほど気にならず観ることができたものの、エレン・ペイジのワンパターンな話し方と演技は自宅で観ていたら早送りをしたいくらいであった。

ジェシー・アイゼンバーグが好きな人には是非『30 Minutes or Less(邦題:ピザボーイ 史上最凶のご注文)』を観ることをお勧めする。比較的マイナーな映画ではあるが、お腹を抱えて笑える作品だ。マーク役とはまたひと味もふた味も違ったジェシーをみることができる。

私は現在アメリカで公開中であるマジシャン達の犯罪映画『Now You See Me(邦題:グランド・イリュージョン)』を近々観るのがすごく楽しみだ。 非常にエンタテインメント性が高いようで、聞く限りでの評判は上々だ。日本では10月より全国でロードショーを予定しているみたいだが、この作品の邦題はなかなか良いと思うので、期待できるのではないだろうか?日本での公開前には本ブログで是非ともご紹介したいと思う。