Wednesday, November 19, 2014

The Theory of Everything(邦題:博士と彼女のセオリー/日本公開予定2015年3月13日)


ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という病を最近耳にした方も多いのではないだろうか?

そう、少し前にIce Bucket Challenge(アイス バケット チャレンジ)によって、世界中にその名を広めた病である。

「車椅子の物理学者」として知られるイギリスの理論物理学者Stephen Hawking(スティーヴン・ホーキング)も、その病と闘っている一人だ。


The Theory of Everything(原題:ザ・セオリー・オブ・エブリシング/万物の理論)』は、そのスティーヴン・ホーキング博士と婦人の関係に焦点を絞った伝記映画である。

ホーキング博士は、ブラックホールの特異点定理 [gravitational singularity theorems] やホーキング放射 [Hawking radiation]、タイムトラベルが不可能であるとする時間順序保護仮説などを発表し、原題の宇宙論に多大な影響を与えている学者だ。 

天才が病におかされ、苦しみながらも、妻の懸命な支えを得ながら研究・発明を続けて行くといったストーリーは天才数学者John Nash(ジョン・ナッシュ)の伝記映画の『A Beautiful Mind(邦題:ビューティフル・、マインド)』とよく似ており、それを彷彿させるものがある。

ビューティフル・マインドでは、ジョン・ナッシュの精神(メンタル)が蝕まれて行ってしまう。一方、本映画では身体の筋肉(フィジカル)の機能が低下してしまう神経変性疾患に罹患し天才物理学者スティーブン・ホーキングの病との闘いが描かれている。


Stephen Hawking(スティーブン・ホーキング)の人生について、映画のストーリーも少し交えながら紹介したいと思う。

ホーキング青年は、イギリスの名門オックスフォード大学を卒業し、ケンブリッジ大学の大学院、応用数学・理論物理学科に入学して約1年経った頃、姉の友人であるJane Wilde(ジェーン・ワイルド)と出会う。




二人が交際を始めて間もない頃、頻繁につまづいて転んだり、階段から転げてしまったりするような症状が出始め、1963年にはALSだと診断され、医師からは余命2年と告げられる。

事実、ALSは運動ニューロン病の一種で極めて進行が速く、治療法もまだ確立されていないため、半数ほどが発症後3年〜5年で呼吸筋麻痺により死に至ってしまうケースが多いようだ


余命宣告をされたスティーブンは大きなショックを受け、自暴自棄になり、ジェーンをも自ら引き離そうとする。

しかし、ジェーンはスティーブンに彼のことを愛していると伝え、彼の側で一緒に闘っていきたい、そしてその覚悟があるのだと告げる。

そんな二人は翌年1964年に婚約、1965年に結婚し、1967年には長男が生まれる。


その後も、スティーブンとジェーンは、容赦のない病の進行と闘い、乗り越えながら、世界中を驚かせる研究と発見を世の中に提唱していくのだが、彼らの関係性にも変化が現われ始める。二人のアップダウンや深い愛、そして愛するがゆえの苦しみなどがこの映画の見どころなので、そこは是非映画で観ていただきたい。


ALS患者としては珍しく、スティーブンは医師の余命宣告が2年だったにも関わらず、72歳になった今も健在である。




映画『Les Miserables(邦題:レ・ミゼラブル)』でマリウスを演じたEddie Redmayne(エディ・レッドメイン)が、 スティーヴン・ホーキング博士を演じている。ホーキング婦人のジェーンを演じるのは、『Like Crazy(邦題:今日、キミに会えたら)』のイギリス人女優Felicity Jones(フェリシティ・ジョーンズ )。本当にエレガントで品のある美しい女優さんで、私自身とても好きな女優さんだ。ジェーンは自らも博士号を持つ賢い女性で、弱そうでいて実は力強く、真のある女性みたいなので、配役としてフェリシティはぴったりだったのではないだろうか。彼女が一躍有名女優となるきっかけとなった2011年の『Like Crazy(邦題:今日キミに会えたら)』については是非このブログでまた改めて紹介したいと思う。


監督は 2008年『Man on Wire(マン・オン・ワイヤー)で第81回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した James Marsh(ジェームズ・マーシュ)。また『Les Miserables(邦題:レ・ミゼラブル)』で製作を務めたTim Bevan(ティム・ビーヴァン)とEric Fellner(エリック・フェルナー)がプロデュースを務める。
編集は、ジェームズ・マーシュ監督作にて数多く組んでいるJinx  Godfrey(ジンクス・ゴッドフリー)。

脚本はAnthony McCarten(アンソニー・マッカーテン)が描いているが、 10年もの歳月をかけて、ようやくジェーン・ワイルドが書き、1999年に初版となった回想録『Travelling to Infinity: My Life with Stephen by Jane Wilde Hawking』を映画化する承諾を得ることができたよう。スティーブンとジェーンは離婚し、互いに違う相手とその後結婚もしたので、様々な事情もあるのかもしれない。


しかし、婦人が書いた回想録であるだけに、決して綺麗事だけではない、2人のリアルな関係と闘い、苦悩が記されているのだろう。それを実に上手に、忠実に、脚本にアダプトできている印象を受けた仕上がりだ。

そしてそれを更に、エディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズが、これは本人たちなのではないか、と思ってしまうほど見事に演じている。ユーモアあるホーキング夫婦の、それぞれの互いへの想いや葛藤が観る者にもものすごく伝わってくる。


絵と音もとても綺麗な映画なので、日本で公開された際には、是非多くの方に観ていただきたいと思うが、ハンカチはお忘れなく私は映画の中盤あたりはずっと号泣してしまった。

笑いもありつつ、心にじんとくる、心温まる映画だ。

English ver. trailer


Tuesday, November 4, 2014

Nightcrawler(邦題: 未定、日本公開日:未定)


本作『Nightcrawler(邦題・日本公開日:未定)』は、ハロウィンである1031日に全米で公開された。



脚本と監督はDan Gilroy(ダン・ギルロイ)、プロデューサーの一人には兄のTony Gilroy(トニー・ギルロイ)、フィルム編集は『Pacific Rim(邦題:パシフィック・リム)』なども手掛け、ダンの双子の弟であるJohn Gilroy(ジョン・ギルロイ)がつとめており、ギルロイ3兄弟が関わっていることでも話題を呼んだ。



この3兄弟の父親であるFrank D. Gilroy(フランク D. ギルロイ)はピューリツァー賞受賞経験のある脚本家である。

これまで脚本家として活躍してきたダンだが、この作品によって監督デビューを果たした。



主演は、David Fincher監督の『Zodiac(邦題:ソディアック)』で一躍有名俳優となり、直近では『Prisoners(邦題:プリズナーズ)』に出演したJake Gyllenhaal(ジェイク・ギレンホール)。



その他には監督・脚本を手掛けたDan Gilroy(ダン・ギルロイ)の妻であり、『Thor(邦題:マイティ・ソー)』シリーズにも出演している女優のRene Russo(レネ・ルッソ)、そして米国でまだその名を知られていないパキスタン系イギリス人俳優のRiz Ahmed(リズ・アへメド)などが出演している。



ナイトクローラーとは、英語でも名詞としては実際に存在しない言葉だが、大きなミミズのことをナイト クローラーと言う場合もあれば、ニュアンス的には、夜の街を徘徊する者、這い回る者という意味を持たせてつけたタイトルなのだろう。

そのタイトルの通り、Jake Gyllenhaal(ジェイク・ギレンホール)演じる主人公のLou(ルー)は夜のロサンゼルスの街をハイエナのように這い回るのである。



ネタバレしない程度にストーリーを少し紹介したい。

*****

ルーは工事現場から物を盗むことで生計を立てている謎の男である。

ある夜、高速を走っている時に車の単独事故を目撃する。車を止め、ルーは交通事故現場を見に行く。すると、そこに駆けつけたフリーランスのカメラクルーが現場に近づき、燃え上がっているところから女性が救出される姿を必死に映している様子に遭遇する。

ルーはカメラマン達の行動に興味を持ち、誰の為に働いているのかを聞く。

カメラマンは、自分達は誰に雇われている訳ではなく、一番高く買ってくれる報道(テレビ)局に売っているのだと説明する。

魅了されたルーは、早速簡易のビデオカメラとラジオを手に入れ、真似事を始める。ラジオで警察の無線を盗聴しては、事件を嗅ぎ付け、現場に向かう。

たまたま一度撮った現場で、誰よりも生々しいグロテスクな映像を撮ったルーは、地域のテレビ局のニュースディレクター、Rene Russo(レネ・ルッソ)演じるNina(ニーナ)に映像を見せに行く。これを気に入ったニーナはルーの撮った映像を購入する。

その際、ニーナは残忍で残酷な映像、血が多く流れる映像を視聴者は求めていると言い放つ。



味を占めたルーは、凶悪事件の現場を写すべく、一人奔走する。

しかし、現場に辿り着いた時には既にライバルに手柄を撮られてしまうことも多く、一人で撮ることに限界を感じ、アシスタントとしてお金に困っている若者のリックを雇う。



次第に恒常的にルーの撮影した映像が売れるようになり、機材も新調し、徐徐に警察よりひと足先に事件現場に辿り着き、テレビ局が欲しくてたまらないような映像を撮ることに度々成功するようになる。

更に上を目指し続けるルー。その為に彼がとった行動とは

*****



観ていくうちに、なんとなく展開は読めるものの、観客に終始衝撃を与えてくれる映画だ。

ストーリーも脚本もとてもよく出来ている上に、異常、そして執拗なまでにこの仕事に夢中になる主人公ルーを演じたジェイク・ギレンホールの演技が絶賛されている。ジェイクに気味の悪い、頭がイカレているような演技をさせたら右に出る物がいないくらい、その演技力は彼の代表作ゾディアックで証明されているが、本作でも見事なまでに気持ち悪さで観客を笑わせ、ゾクッとさせてくれている。

この映画はまた、マスメディア・ジャーナリズムの倫理問題にも触れ、テレビ局とフリーのジャーナリストとの関係性をも描き、視聴率が全てというテレビ局の視聴率戦争を描いている。今の時代だからこそ作られた映画という印象だ。

日常のように交通事故、強盗、殺人が行われ、裕福な人々の層から恵まれない人々の層まであらゆる人が生活をしているロサンゼルスならではの映画ともいえる。



一つ前の記事で紹介した『Gone Girl(邦題:ゴーン・ガール)』と同じように、後味の悪い、少しだけ不愉快、でも面白いと唸らされる映画である。


邦題や日本での公開は現時点でまだ未定だが、公開されたら是非映画館で見ていただきたい。


これは余談だが、ハリウッドでも日本でも、これまで主人公はヒーローであることが多かったが、ここ最近は主人公が悪であるアンチヒーロー系の映画が増えて来ているように感じるのは私だけだろうか。今の時代、観客もそれを求めているのかもしれない。


English trailer


Thursday, October 30, 2014

Gone Girl(邦題:ゴーン・ガール)


鬼才、巨匠、ヒットメイカー、どの呼び名にもふさわしい名監督David Fincher(デヴィッド・フィンチャー)が監督し、Reese Witherspoon(リース・ウィザースプーン)がプロデューサー、Ben Affleck(ベン・アフレック)が主演ということで、企画があがってプロダクションに入った段階から高い注目を浴びていた本作品『Gone Girl(ゴーン・ガール)』。



さて、この作品は、何から書き始めればいいことやら。

*スリラーミステリーなので、絶対にネタバレすることのないように気を付けて書きます。

一言、二言で言うと、また映画史に残る作品がでてきた、ということと、個人的に今年観た映画の中で最も興奮したということに尽きる。圧巻だ。


10月中旬、日本からロサンゼルス空港に戻ってきたその足で観に行ったが、時差ボケで眠いにも関わらず、興奮しすぎて、翌朝から再びサンフランシスコに向かうというのに、その夜はなかなか眠りにつくことができなかった。

ストーリーの展開がひと捻りもふた捻りもあり、最後の最後まで圧巻の一言で、思わずエンドロールが流れると、言葉を失い、なんて作品が世に出たのかと思わず笑ってしまった。


David Fincher(デヴィッド・フィンチャー)監督は、観客を引き込み、熱狂され、唸らせる天才だ。

また、スタイリッシュな映像とサウンドトラックの素晴らしさはさすがデヴィッド・フィンチャー作品という印象だ。

彼の代表作には、彼が映画ファンの中で注目されるきっかけとなった『Seven(邦題:セブン)』や『Fight Club(邦題:ファイト・クラブ)』、アカデミー賞で監督賞にノミネートされた『The Curious Case of Benjamin Button(邦題:ベンジャミン・バトン 数奇な人生)』や『The Social Network(邦題:ソーシャル・ネットワーク)』、また直近の作品では『The Girl with the Dragon Tattoo (邦題:ドラゴン・タトゥーの女)』がある。


今までのどの作品に勝るとも劣らない、独創的な映像表現と力強いストーリーテリングが見どころである。2時間半超えの映画だが、全く長いと感じさせない。

かなり大袈裟で極端ではあるが、“夫婦”、“結婚”、“男”、“女”というものの実態を描いている。


元々、この映画はGillian Flynn(ギリアン・フリン)という40代の女性アメリカ人作家が2012年に書き下ろした大ヒット小説を原作に映画化したものである。脚本も著者のギリアン本人が手掛けている。


Argo(邦題:アルゴ)』のBen Affleck(ベン・アフレック)が主演、『Pride and Prejudice (邦題:プライドと偏見)』で一家の長女を演じたRosamund Pike(ロザムンド・パイク)、今回アカデミー賞の司会をすることになったコメディアンのNeil Patrick Harris(ニール・パトリック・ハリス)らが共演している。これまでロザムンド・パイクの出演作は2作ほど観たが、あまりパッとすることがなく、容姿はとてつもなく美しいのに、微妙な女優さんだなーという印象だったが、本作で魅せた彼女の演技は文句の付けどころがないほど素晴らしく、確実にアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされるだろう。

ニックの妹役マルゴを演じたCarrie Coon(キャリー・クーン)、刑事役のKim Dickens(キム・ディケンズ)、そしてエイミーの元彼役もそれぞれにとても良い味を出していた。


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物語はニックとエイミーの結婚5周年目の記念日から始まる。恋に落ち、結婚してから5年間、誰もが羨むような幸せな結婚生活を送っていた2人。


しかし、結婚記念日にエイミーが突然姿を消したのだ。リビングには争った後があり、キッチンからは大量のエイミーの血痕が発見された。警察は他殺と失踪の両方の可能性を探り捜査をしているが、アリバイも振る舞いも不自然なニックに、次第に警察、メディア、世間の疑いの目が向けられていく。


この失踪事件によってミズーリ州の田舎町に全米の注目が集まり、暴走するメディアによってカップルの隠された素性が暴かれ、やがて、事件は思いもよらない展開を見せていく。

誰もが一目を置く完璧な妻エイミーにいったい何が起きたのか

そしてニックは妻の失踪に関わっているのだろうか

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デヴィッド・フィンチャー作品の傾向ともいえる、メディアに対する描写も非常に特徴的だ。

誘拐、失踪などの事件が起きた時の、メディアの異常なまでに加熱した報道や、メディアが犯人像や事件を形作り、世間の事件の捉え方を操作している存在であることなどを感じさせるのだ。


日本では1212日(金)より全国公開。

観て絶対に後悔しない本作品、見終わって思わず鳥肌が立ち唸ってしまう本作品、必ず映画館で観ていただきたい。

この後味はなんとも言えない。


日本語版予告編